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熊谷孝「文学の鑑賞指導」(10/19)[熊谷孝 昭和20年代(1945-1954)著作]
資料:文教研/熊谷孝への言及(大野 響)(10/13)[アーカイヴズ]
NEWS memo
〔日曜に想う 朝日新聞 2023.2.12〕
「私も当事者」劇場での気づき 編輯委員 吉田純子 より
……クラシックの演奏会に対し、どうしても敷居を感じるという人は少なくない。しかし、敷居と感じられがちなものは、劇場という場でしか味わえない感動を約束すべく、奏者と聴衆が互いへのリスペクトを礎に育ててきた文化でもある。
……「私たちの社会は『自分』と『他人』じゃなく、もっと曖昧(あいまい)に溶け合った集団です」。宝塚歌劇団で熱狂的な支持を得て、惜しまれつつ昨年退団した演出家の上田久美子さんの言葉が、ふと蘇(よみがえ)る。
上田さんは今月、初めてオペラを演出した。「人々の思考を突き動かす仕事をしたい」というまっすぐな覚悟が、取材中もみずみずしくスパークする。
……上田さんが手がけたのは、「芸術」というベールを突き抜け、人間の負の感情をも生々しく劇的に描き、イタリアオペラを新時代へと導いた「道化師」と「カヴァレリア・ルスティカーナ」の2作。不倫の果ての殺人という究極の心理劇だが、舞台の両隅では、ダンサーの演じる2人の路上生活者が、我関せずの風情で自らの生の営みを淡々と続けていた。驚いたことに、彼等は終演後にも、劇場の出口に座り込んで物乞いをしていた。
むろん演出だが、観客は、さっきまで舞台で起こっていたことの当事者に自身がいつなってもおかしくないのだという現実を、ひんやりと背中に突きつけられる。盛大なブラボーとブーイングが交錯する場所に立ち、上田さんは表現者としての新たな一歩を確かに踏み出した。
劇場は「現実で起こってはいけないこと」の解放区であり、人間の感情がいかに複合的で多層的であるかという気付きの宝庫でもある。
……昨年11月に襲撃された社会学者の宮台真司さんは先月、東京音大で開いた講演でこう語った。いかに安全を確保しながら、大学を外へ開いてゆけるか。その最適解を、今こそ恐れず真剣に探るべきだと。容疑者とみられる男の死亡が伝えられた後も、宮台さんは動画でその家族や友人を思いやる言葉を述べていた。
宮台さんは、できうる限り多様な状況の「当事者」であろうとしている。そのために日々本を読み、人々の声を聴く。本や劇場は「当事者」となる疑似体験の装置であり、他者への想像力を培う触媒になり得る。そこから始まる「個」と「個」の議論こそが重要だ。どんな戦争も、何かのきっかけで、水の中に一滴のインクがこぼれて広がるかのように始まる。その時に、誰もが「個」をなくした傍観者となってしまっていたら、インクはあっという間に水の色を染めてしまうだろう。結果、誰もが自覚のないまま、権力に加担する事になりかねない。
匿名の人々の言葉によって築かれた石垣に守られながら、次なる礫(つぶて)を投げる誰かを「正義」の名のもとに探し続ける人たちは「自分は当事者ではない」という安全地帯に立っている。いや、立っているつもりでいる。「安全地帯に立ちたくない」。宮台さんの語ったこの決意の先にこそ、学問とアートを緩やかに連ねる未来形の豊かな議論の土壌を見たい。
誰もが孤独の時代 人間性失わないで
……ウクライナ人がロシア文化を排斥することに賛同はしませんが、その背景はよく理解できます。ただ、作家は人々を育むために働いています。ドストエフスキーが示したように、私たちは「人の中にできるだけ人の部分があるようにするため」に働くのです。
ウクライナ侵攻では人間から獣がはい出しています。私も「本当に、言葉には意味があるのだろうか」と絶望する瞬間があります。それでも私たちの使命は変わりません。文学は人間を育み、人々の心を強くしなければなりません。残虐な運命に身を置かれた時、人間をのみ込む孤独に打ち勝てるように。
……私たちが生きているのは孤独の時代と言えるでしょう。私たちの誰もが、とても孤独です。文化や芸術の中に、人間性を失わないためのよりどころを探さなくてはなりません。
ノーベル文学賞作家 アレクシエービッチさんへのインタビュー( 『朝日新聞』 2023年1月1日 朝刊 )より |
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岩波文庫 2022.8刊 太宰 治 『右大臣実朝 他一篇』 (解説 安藤宏)
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紅野謙介著 『国語教育の危機――大学入試共通テストと新学習指導要領』
(ちくま新書 2018.9刊)
(同書カバーより)「大学入試センター試験」に代わって新しく導入される「大学入学共通テスト」。試行テスト等の内容を見る限りでは、本当に国語の大学入試問題なのかと首をかしげたくなる。新テストは、「新学習指導要領」の内容を先取りする形で作成されており、これが文部科学省の目指す理想形だとしたら、いま国語教育は重大な危機に瀕していると言えよう。「大学入学共通テスト」と「新学習指導要領」をつぶさに分析し、そこからいま見える国語教育が抱える問題点を指摘し、警鐘を鳴らす。
[抜粋]
《資料》「学習指導要領」批判の論拠 [学習指導要領…論拠]
《資料》「学習指導要領」批判の軌跡 (文教研) [学習指導要領…軌跡]
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《資料》 文学の仕事 ――諸家の文学観に学ぶ(目次)
・ 戸坂 潤 「わが文学観―要点三つ」
・ 大江健三郎 「いま、なにが日本の作家に必要か」
・ A.ティボーデ 『小説の美学』
・ M.ゴーリキー 「文学論」
・ 森 鷗外 「今の諸家の小説論を読みて」
・ 森 鷗外 「沈黙の塔」
・ 森 鷗外 「文学の主義」
・ J.M.ギュイヨオ 『社会学から見たる芸術』
・ J-P.サルトル 『文学とは何か』
・ 芥川龍之介 著作より
・ J.デューイ 『芸術論――経験としての芸術』
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《論文紹介》 岩﨑晴彦 「 〈内なる対話〉を育む文学教育―『高瀬舟』と『レ・ミゼラブル』 」 (『教育』 2020.12) |
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熊谷孝著作一覧
(Ⅰ) 1934~1960
(Ⅱ) 1961~1970
(Ⅲ) 1971~1980
(Ⅳ) 1981~1992
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