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日本読書学会編 『読書による人格形成』 学会の報告記録 刺激と示唆を与える調査・報告 熊谷 孝 |
「日本読書新聞」 1958年6月30日号掲載---
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![]() あとがきによれば「学術的性格よりも、むしろ啓蒙的ないし時論的性格をおびたものになったが(それは)われわれの学会も時の問題と取りくむことを辞するものではないことを示す」ものだ、という。実際に〈時の問題〉――つまり道徳教育の問題に関する発言がこの本の大きな部分を占めているわけだが、その〈啓蒙〉の立場は、道徳教育の教科としての特設を文部大臣に答申した教育課程審議会のそれと同様のものである。この本が一面『道徳教育実施要綱・読書指導編』みたいな体裁になっているのも、そのためである。 読みごたえがあり、そして現場の意欲的な教師に刺激と示唆を与えているのは、肩をいからした右のような部分ではなくて、むしろ《啓蒙》や《時論的性格》をはなれた「マス・コミュニケーションと漫画」(第四章、もりさき・しんじ氏他)や「好きな読み物に対する中学生の読書反応の研究」(第六章、岡本奎六氏)などの、地道で本格的な調査・報告であろう。 時論的な発言で光っているのは、滑川道夫氏などの自称「ヘソ曲り」な発言だけ。文学作品から道徳的要素だけをぬきだして子どもに与えるような道徳教育や文学教育だったら、やめたほうがいい、という氏の発言は注目にあたいする。(A5三三七頁・五八〇円・牧書店) (筆者くまがい・たかし氏は国立音楽大学教授・国文学専攻) |
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