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「森村学園女子部PTAニュース」15(1956.5)掲載---
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(「PTAニュース」の「読書」欄に(T・K)の署名で掲載された。)私たちの少年少女時代をはぐくんでくれた児童文学――童話や童謡やさまざまの読物が、かえりみて、いったいどういう性質の文学であったのか。私たち自身ハッキリとは意識していないところの、“私”という人間の形成に、これらの文学作品がどう作用していたのか。つまり“私”という人間のもつ或種のゆたかさ、或種のゆがみが、それとどういうかかわりをもつのか。 …そういうことを深く深く考えさせてくれるのが、菅さんのこの『日本児童文学』という本です。 それはまた同時に、私たちの子どもが、これまでに、そして今どういう作用・影響をこれらの文学作品から受けているのか、という点に思いをめぐらすことになります。事実、この本は、教育的関心において書かれた児童文学史です。若い日セッツルメント運動に挺身し、また岩波の『教育』編集部にあって教育運動をつづけてきた著者が、戦後、大久保正太郎氏らとともに『子供の広場』『子供の村』などの良心的な児童雑誌の編集をおこないながら、二十余年の研究の成果をうちだした、これは氏のライフ・ワークです。 これまでの日本文学史は穴だらけ、スキマだらけでした。特に児童文学に関する面で大穴があいていました。菅さんのこの仕事で、その面がカヴァーされたのは、うれしいことです。書評子自身、菅さんのえがいてくれたこの見取り図にしたがって、おとな文学と子ども文学とのつながりを、これから探ぐっていこうと思っているところです。 豊富な図版、写真版が、またこの本の読書をたのしいものにしてくれます。一読をおすすめします。著者は児童文学者協会委員、日本子どもを守る会常任理事。(大井書店新刊・B6三五〇ページ・三八〇円) |
‖熊谷孝 人と学問‖熊谷孝 昭和10年代(1935-1944)著作より‖熊谷孝 昭和20年代(1945-1954)著作より‖熊谷孝 1955〜1964(昭和30年代)著作より‖ |