文学と教育 ミニ事典
  
文学的発想
 文学・小説は、最も普遍的な性質を具えた個を、その普遍の中に探り求めて、描写という表現手段によって形象的造型を行なおうとする営みだ、ということにもなりましょうか。
 
文学的発想というのは、第一義的には、(…)最も普遍的な性質を具えた個が何でありどれなのかを、形象の眼で見きわめる、という発想のことです。こうした最も普遍的な性質を内包している個のことを典型 と、そう呼ぶわけなのですが、(…)井伏が見つけた典型はしぐれ谷の朽助であって、他のもろもろの“朽助”ではなかったわけです。
 
つまり、この 朽助や、朽助のいる谷間に……そういう場面と、そういう人間像に典型を見つけたという点に、井伏文学固有の発想があるわけなのです。〔1978年、熊谷孝著『井伏鱒二――〈講演と対談〉』 p.64-65〕


 人間の発想、世代的人間である個人の発想というものは、突っ拍子もなく、そうそう変わるものじゃありません。突然変異みたいに、ですね。その推移・変化には必ずと言っていいぐらいに、ある必然性があります。殊に、
文学的発想や文体の基本的な変化にはそれがあるわけです。いわば、文学史的必然であります。〔1978年、熊谷孝著『井伏鱒二――〈講演と対談〉』 p.87〕
    

〔関連項目〕
典型

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