熊谷 孝 著
太宰 治 『右大臣実朝』試論 (増補版)
 
増補版『太宰治 「右大臣実朝」試論』函   この著書は、一九七九年六月に出版された『太宰治――「右大臣実朝」試論』(鳩の森書房)の増補改版である。初版が絶版であったため、ながらくその出版が待望されていたのであるが、今回それが実現した。それに加えて、この増補改版には、初版以降の研究成果が反映されており、私たちの喜びもまた大きいわけである。(…)
 「増補版の刊行にあたって」のなかで、著者は、次のように述べている。「〈リアリズム志向のロマンティシズム〉という枠組みで日本近・現代文学における異端の系譜(異端の文学系譜)をつかみ直すことの中で、この一、二年来私の太宰治論にも多少の変化が生じて来ている。とりわけ『右大臣実朝』に対しては私なりの一つの評価の方向が定着し始めたような気がする。」
 Tでは、太宰文学を解明するうえで書くことのできない「予備概念」に関して明確な規定があたえられる。「文学的イデオロギー」「教養的中流下層階級者の視点」などがそれであるが、熊谷氏が提起したこれらの概念は、文学とは何か、文学的認識とは何か、を私たちが究明していくうえで、明確な展望を示している。(…)
(「文学と教育」140 井筒 満「新刊紹介」より)
    
1987年4月
みずち書房 発行

四六判 358頁
定価 2000円 
絶版

著者:熊谷 孝(くまがい たかし)
1911年、東京に生まれる。法政大学文学部卒、同大学院修了。専攻、文芸認識論・日本近代小説史。
法政大学助手・講師・助教授、 国立音楽大学教授を経て、現在国立音楽大学名誉教授。文学教育研究者集団に所属。
著書  『芸術とことば』(牧書店)、『芸術の論理』(三省堂)、『文体づくりの国語教育』(三省堂)、『言語観・文学観と国語教育』(明治図書)、『井伏鱒二〈講演と対談〉』((鳩の森書房)その他約十編、ほかに編著書十数編。
  内 容


 
  増補版の刊行にあたって
     〈付〉〈リアリズム志向のロマンティシズム〉ということ

   
太宰文学奪還(初版・あとがき)

   この本の構成



T  太宰治の文学的イデオロギー
――付 太宰治語録

     太宰治の文学的イデオロギー 

    
太宰治語録


U  太宰文学の原点

      近・現代文学史上、最も不幸な作家
     
     太宰文学の座標
――『晩年』の世界
     

     太宰文学展開の軌跡
――その時期区分
    
      
日中戦争から太平洋戦争へ

     無頼派談義
――戦後へ


V  “あそび”の系譜――森鴎外と太宰治

     太宰文学の源流――教養的中流下層階級者の視点

      
幸徳事件と鴎外

     アマチュアリズム
――鴎外から太宰へ

      
考証と考証癖と――『阿部一族』(一)
 
       
メンタリティーの文学――『阿部一族』(二)



W  『右大臣実朝』のために(一)
 太宰治の眼に映じた『吾妻鏡』の世界


      史実と虚構と――相州義時と実朝の間

        
『吾妻鏡』にみる“あそび”の精神――匠作泰時の場合・和田義盛の場合



X  『右大臣実朝』のために(二)
 『金槐和歌集』と太宰治


       
実朝像の原型・現像

     『右大臣実朝』論の源流と今日の主流的見解

     『金槐和歌集』の中の実朝像

     『金槐和歌集』と『右大臣実朝』と


 
Y 『右大臣実朝』三題

      
戦中から戦後へ――十人十色の実朝像/ナルシシズム

       
“実朝のころ”の太宰治――「鶴岡」源実朝号のことなど

      
ポエジーの、散文文学的実現への移調



Z 詐欺師と嘘つきと――『右大臣実朝』再説

      
アカルサハ、ホロビノ姿デアロウカ

      倦怠の文学
――芥川龍之介の場合

      
“芥川を越えた”作品、ということの意味――鴎外・井伏の歴史小説と『右大臣実朝』と

      
メンタリティーの文学としての『右大臣実朝』

     『右大臣実朝』前後
――『富岳百景』から『津軽』へ、そして戦後へ

      
マチ針としての『金槐和歌集』の歌(一)



[ 『右大臣実朝』という作品の内と外

     
 作家論と作品論と

     選手交代の意味

     『さざなみ軍記』から『右大臣実朝』へ

     実朝像としての平家の御曹子

     マチ針としての『金槐和歌集』の歌(二)

     アヅマの心と自己凝視と

     人間として面白味のある人間



   太宰文学略年譜

   
さくいん


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