熊谷 孝 著
文体づくりの国語教育 創造と変革への道
           

 わたしのいう“文体づくりの国語教育”というのは、語彙や構文規則などを観念的知識として知っているというだけの、しかし上記のような[引註:連帯拒否・不信の想念を行動に結びつけようとするような]ファナティックな無責任人間や、適当な世渡りしか考えないような無責任人間を量産する教育とは異質のものだ。“文体づくりの国語教育”は、子どもや若者たちの“人間”に対して責任を負う教育活動である。(中略)
 それは、子どもや若者たちの現実把握の発想のしかたを、たえざる印象の追跡・点検において“ことば”を媒介として顕在化し、その顕在化されたものを内化し、いわば《文体的発想》として保障していく作業である。そういう作業を行なうことで、民衆の“連帯の回復”“連帯づくり”という、民族の今日的課題に積極的、具体的にこたえようとするのである。これが、わたしのいう“文体づくり”の国語教育の基本的発想である。 
(本書「はしがき」より) 
1970年6月20日
株式会社 三省堂 発行

A5版390頁
定価1300円
絶版
著者:熊谷 孝(くまがい たかし)
1911年、東京に生まれる。法政大学国文科卒。文芸学専攻。現在、国立音楽大学教授。文学教育研究者集団に所属。著書に 『新しい日本文学史』
『芸術とことば』他。編著『講座日本語』『日本児童文学大系』他。[奥付による]
      
  内 容

 
はしがき


●序 章 七〇年代の社会と教育

  1. 今の教育はどこか狂っている
  2. 学園紛争と教師の責任
  3. 人間と人間教育の回復

●第一部 言語と文学・芸術の理論

  1. 虚構・想像・典型(一)
    1. イメージと“ことば”―不可能を可能にする夢
    2. 古典と現代
    3. 実像と虚像

  2. 虚構・想像・典型(二)
    1. 実践にとってイメージとは何か
    2. 若い日のアンデルセン
    3. 虚構精神の衰弱

  3. 想像力理論の系譜
    1. 課題―“ことば”と認識
    2. ロマン派的発想(一)―唯物論と観念論と
    3. ロマン派的発想(二)―印象の追跡としての批評
    4. ディルタイの想像力理論
    5. サルトルの場合

  4. “ことば”とイマジネーション
    1. 戦後日本の想像力理論
    2. 日常性・芸術性―サルトルの場合(二)
    3. 飼いならされたことば・野性のままのことば
    4. 日常語を想像豊かなものに

  5. 第二信号系の理論―その基礎知識
    1. 信号と記号、信号の記号化
    2. “ことば”は実体か媒体か
    3. 民族的体験の共通信号の系

●第二部 解釈学的国語教育批判のために

  • 生の解釈学と母国語の教育(一)
    1. 凡庸な甘いインテリ向きの哲学
    2. 戦前の国語教育思潮と解釈学
    3. 読みの三層構造ということ―戦前の国語教育思潮と解釈学(二)
    4. 国防教育としての国語教育
    5. 戦後一時期の国語教育思潮―生哲学のアメリカ的形態としてのプラグマティズム、その経験主義と言語技術主義
    6. 一九七〇年・安保の年へ向けて

  • 生の解釈学と母国語の教育(二)―『最後の授業』のアメル先生
    1. 本から現実へ
    2. 感情の素地

  • 文学にとって主題とは何か
    1. 主題展開の軌跡
    2. 作品鑑賞と主題の把握
    3. 感情をはぐくむ読みの作業

  • 主体性放棄の論理
    1. 立場の問題
    2. 前提に問題がある
    3. 何のための解釈学の復活なのか

  • 生から実存へ―K.ヤスパースの“状況”解明の思索を中心に
    1. 課題―学問常識の確かめ
    2. 科学に対する姿勢
    3. その哲学史的位置づけに関するひとつの見解
    4. その反唯物論的姿勢
    5. 可能的実存からする思索
    6. 状況解明の思索

  • 解釈学的人間学―その表現と理解の論
    1. 解釈学的人間学の基本的発想
    2. 日常性・科学性
    3. 芸術の表現と理解

●第三部 文体づくりの国語教育(一)―その構想

  • 文体喪失時代の文学教育
    1. マス・コミ的文体の氾濫
    2. “多様化”構想の下請け教科
    3. この俗論、イヌに食われろ
    4. 文体剥奪の教育としての言語技術主義の教育

  • 文体づくりの国語教育の提唱(一)
    1. 民族の今日的課題と母国語の教育
    2. 連帯づくりと文体づくりと

  • 教科構造と児童観の問題―文体づくりの国語教育の提唱(二)
    1. 民間教育研究諸団体の教科構造論
    2. 文体教育と文体づくりの教育と
    3. “ことば”と人間

  • 文体づくりの方法(一)―文体の変革・創造の歴史としての文学史

  • 文体づくりの方法(二)―印象の追跡、総合読み
    1. 印象ということ
    2. “わかる”ということ
    3. 場面規定
    4. 解釈学的読みの克服
    5. 印象の追跡としての総合読み

  • 文体づくりの方法(三)―『羅生門』(芥川竜之介)をどう読むか
    1. 『羅生門』はテーマ小説か
    2. 重なり合うイメージ

●第四部 文体づくりの国語教育(二)―その展開

  • 文学の授業とは何か
    1. 〈何を〉と〈いかに〉
    2. これが文学の授業か
    3. 教師の〈文学とは何か〉について
    4. 文学体験は個別的、個性的なものだ

  • 鑑賞と読解
    1. 文学作品は諸刃のヤイバだ
    2. 凡言語主義と追体験
    3. 国語教育における戦前と戦後
    4. 概念中心主義的心性の克服を

  • 古典教育と文学教育
    1. 古典で何を教えるか
    2. 教えるということ
    3. 文学は単に文章ではない
    4. 文学と文体

  • 教材化の論理(一)―『トロッコ』(芥川竜之介)を中心に
    1. 教材化における検定教科書の決定的なミス
    2. 文学作品(一般に文章)の教材化ということ
    3. 提示された実践例に対する若干の疑義

  • 教材化の論理(二)―『信号』(ガルシン)を中心に
    1. 道徳の眼、文学の眼
    2. どう媒介するか

  • 教材化の論理(三)『最後の一句』(森鴎外)を中心に
    1. 教材化の前提条件
    2. 孝行娘から反逆児へ
    3. 『最後の一句』の略筋
    4. 鴎外の虚構精神
    5. 民衆の魂、飼いならされた感覚
    6. イメージの追跡としての虚構

  • 第二信号系の理論と授業改造
    1. 形象と言語による思考
    2. 教材群と教材体系

●第五部 運動の中で

  • 組合運動と教研活動の統一のために
    1. ベトナム北爆作戦停止への第一撃
    2. 踏みはずしてはならない一線
    3. あすを信頼して
    4. 何のための組合教研なのか

  • 勤評闘争の時点で

  • 原則的と現実的と
    1. 既成事実は現実ではない
    2. 問題の統一的把握を

  • 国語科の構造改革
    1. 民主教育の視点から
    2. 改訂の基本的なねらい
    3. 文学教育という名の道徳教育
    4. スキル学習では国語は教育できない

  • 文学教育と道徳教育
    1. 教師蔑視の「道徳」特設
    2. 文学教育とモラリティーの形成

  • 岐路に立つ国語教育
    1. 検定なのか、それとも検閲なのか
    2. 窮地に追い込まれる国語科



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