荒川有史 著 | ||
西 鶴 人間喜劇の文学 | ||
1994年5月5日 こうち書房 発行 A5判 439頁 定価 2500円(税込) (書店で発売中) |
こんにちの西鶴文学研究を一見してみますと、作品の魅力を解明するというよりも、作品世界の出典を明らかにすることに精力をそそぐような資料還元主義とか、主題の追跡とは無関係に重箱の隅をほじくるような傍観者風の解釈主義・客観主義とか、虚構のイロハも心得ず、作中人物の一発言を作家の見解と同一視するような資料主義等々が〈科学〉の名において、横行しているようです。 西鶴文学の魅力を語るというより、西鶴文学がいかにつまらないか、を結果において証明するような論文も数多く生産されているように思います。 本書においては、こうした客観主義・主観主義の風潮から西鶴文学を奪還したい、と考えました。(本書「はじめに」より) |
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著者:荒川有史(あらかわ ゆうし) 1930年、宮城県に生まれる。1956年、法政大学日本文学科卒業。国立音楽大学教授、文学教育研究者集団事務局長。著書、『文学教育論』(三省堂)『母国語ノート』(三省堂)『文学教育の構造化』(共著、三省堂)『芥川文学手帖』・『井伏文学手帖』・『太宰文学手帖』(共著、みずち書房)『日本の芸術論――内なる鑑賞者の視座』(三省堂、近刊)。 |
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◆ 内 容 | ||
はじめに――なぜ、いま西鶴か T 西鶴文学の視角 一 現代史としての文学史 まえがき 1 私の分担課題 2 現代史の中の私たち 3 〈現代史としての文学史〉という発想の成立 4 自己凝視の原点 二 文学史の中の近世と近代――その接点 まえがき 1 疎外状況下の文学教育 2 透谷をくぐることで見えてきたもの 3 西鶴をくぐることで見えてきたもの 三 西鶴文学の展開にみる、鑑賞体験の変革 1 文学以前とは何か? 2 近世小説の場面規定 3 文学精神の深化 4 西鶴の喜劇精神 U 西鶴文学の世界 一 『好色一代男』にみる表現の特性 1 オトナのマンガの題名――〈恋は闇〉 2 世之介誕生の雰囲気――冒頭の文体刺激 3 言葉の壁と文化の壁 4 言葉刺激と言葉反応の間 5 〈新しい女〉との出会い 二 『好色一代男』の世界 1 二つの羅針盤 2 西鶴文学地図の魅力 3 『一代男』にみる人間模様 4 喜劇精神誕生の契機 三 『西鶴諸国ばなし』にみる説話と小説の間 1 西鶴の人間観・人間像 2 近世小説としての浮世草子――逃亡世代の自覚の端緒 3 武士にみる人間の条件――逃亡世代の視座において 4 浪人気質にみる人間群像――連帯のさまざまな模索 5 民衆にみる人間の条件――人間の可能性の素朴な追跡 四 近世小説としての『好色五人女』 1 西鶴自身による『一代男』の総括 2 西鶴世代の視座にみる〈初代〉像 3 二代目の転身 4 人間喜劇の構造性 5 内面に虚構されたおなつ 五 浮世草子の展開 1 西鶴が生きた時代 2 西鶴世代の条件 3 人間の条件 V 西鶴文学研究史――戦中から戦後へ 一 西鶴世代の発見/熊谷孝 1 西鶴世代との対話 2 西鶴の文学精神――その時期区分論 3 文学史一六九〇 二 未完結志向の文学/廣末保 1 戦前西鶴論への懐疑 2 近松の視座から見直された西鶴像 3 印象の追跡による西鶴の再発見 4 八〇年代西鶴論の展開 5 文学史の中の西鶴 6 西鶴の再発見 三 〈美の十字軍〉の西鶴観/岡崎義恵 1 戦時下の西鶴論 2 〈中世的気魄〉の証明 3 〈西洋的日本人〉の発見――戦後の西鶴論 4 〈美の十字軍〉の見事な破産 四 話し手の視座から/野間光辰 1 定本西鶴全集刊行の意義 2 西鶴年譜考證の出現 3 西鶴の方法 五 〈集約的リアリズム〉の行方/暉峻康隆 1 課題の設定・『西鶴新論』からの逆照射 2 戦中からの追跡――『西鶴の世界』から『西鶴/評論と研究』へ 3 〈絶望〉の世界を見すえる文学精神 4 西鶴世代の生きた現実 5 文学史意識による経済現象の追跡 6 日本近世史の一環としての文学史 7 近世リアリズムと近代リアリズム 六 近世文学の中の西鶴/森山重雄 1 戦後における西鶴論の新しい起点 2 逆照射による戦後十年の総括 3 近世文学史の中の西鶴 4 文学教育意識に見る、古典とは何かを問う視点 七 近世における人間の条件/重友毅 1 西鶴文学としての『好色一代男』 2 長篇小説の挫折が意味するもの 3 西鶴文学にみる人間回復 4 近世における人間の条件 5 作品把握の方向差・個人差 八 封建体制下の恋愛模様/向井芳樹・井上敏幸 1 研究史を問い直す 2 学説史要約の見本 3 文学以前とは何か 4 文学史の中の西鶴 5 古典論の課題 あとがき 西鶴・芭蕉年譜 索 引 |