荒川有史 編著
日本の芸術論   内なる鑑賞者の視座      
  


1995年5月5日
三省堂 発行

A5判 423頁
定価 2500円(税込)

絶版
 『日本の芸術論』という書名から推測されるように、本書の叙述はきわめて広い範囲にわたっている。歌論・連歌論、能楽論、浄瑠璃論、近世および近代の小説論、文学教育論、そして芸術認識論。中心的に取りあげられている芸術家は、定家、観阿弥・世阿弥、西鶴、芭蕉とその門人たち、近松、芥川、井伏。四人の共同研究者の執筆協力を得たとは言え、その対象領域の広さ、飽くことのない真実探求のエネルギーに、驚き、圧倒される。
 今、文学研究も専門化・細分化が著しく、古典文学と近・現代文学とを統一的に把捉し論じうる視点が見失われがちである。そうした中で、著者が強調する「内なる鑑賞者の視座」という基調概念がいかに重要かつ有効であるか、対象の特性に即した柔軟な思索と伸びやかな筆致を通して、私たちはじっくりと学ぶことができる。
(「文学と教育」170 樋口正規「楽しく厳しい思索の書」冒頭)
 
  
編著者:荒川有史(あらかわ ゆうし)
1930年 宮城県に生まれる。1956年、法政大学日本文学科卒業。 国立音楽大学教授、文学教育研究者集団事務局長。著書に『文学教育論』(三省堂)『母国語ノート』(三省堂)『西鶴
人間喜劇の文学』(こうち書房)『文学教育の構造化』(共著、三省堂)『芥川文学手帖』・『井伏文学手帖』・『太宰文学手帖』(共著、みずち書房)などがある。
共同研究・分担執筆者:成川日女美、山田光枝、森山昌枝、井筒満   
   
  内 容

    異端の文学系譜の追跡
――まえがきにかえて



T  日本型芸術論の成立と展開


  一 歌論・連歌論の成立
    
      1 心と詞――言葉と発想との二人三脚
      2 定家の理想


  
二 観阿弥と世阿弥との対話――『風姿花伝』の世界

      1 世阿弥による観阿弥の総括
      2 理想としての衆人愛敬
      3 あるべき舞台形象への追跡
      4 稽古にみる自己凝視・自己確認・自己否定
      5 〈時の花〉と〈まことの花〉
      6 内なる観客との対話
      7 〈貴人本位〉の発想をさぐる
      8 観阿弥の舞台形象と世阿弥の物まね論との落差
      9 観阿弥の物まねの行方
     10 世阿弥の思索と創作実践


  三 『風姿花伝』から『花鏡』・『申楽談義』へ――その連続と非連続

      1 演技の過程構造
      2 幽玄という切り口
      3 卓抜な批評精神
      4 〈上〉〈中〉〈下〉の相互交流
      5 創造志向による真の継承


  四 西鶴の創作方法――説話と小説の間

      1 西鶴の人間観・人間像
      2 近世小説としての浮世草子――逃亡世代の自覚の端緒
      3 武士にみる人間の条件――逃亡世代の視座において
      4 浪人気質にみる人間群像――連帯のさまざまな模索
      5 民衆に見る人間の条件――人間の可能性の素朴な追跡

 
  五 西鶴文学の読者――西鶴文学研究史覚え書・「西鶴の創作意識とその推移」(中村幸彦)を読む

      1 同時代の証言
      2 〈俗源氏〉ということばに託されたもの
      3 創作意識を探ることの意味
      4 〈俗〉の問題を通路に
      5 文学史の中の西鶴
      6 現代史としての文学史


  六 芥川龍之介にみる芭蕉像

      1 親鸞・乾孝・芭蕉
      2 人を見て法を説く――芭蕉の教育法
      3 連句とは何か
      4 連句のありよう
      5 去来の構成意識
      6 芥川の構成意識


  七 創造完結者(鑑賞者)としての芭蕉
        
      1 馬齢を重ねつつも
           
2 古典の再発見
      3 先師・宗師・大山師の感受性
      4 創造完結の試金石
      5 表現理解を規制する想像意識
      6 文体反応にみる方向差・個人差


  八 芭蕉と其角の相互主観性

      1 私の内なる其角像
      2 〈内なる其角像〉のひろがり
      3 芭蕉と西鶴の間
      4 蕉門における其角の位置
      5 其角人脈の多様性
      6 其角像の再発見
      7 去来による其角批判の意味するもの
      8 其角による去来書簡の無断改稿の行方
      9 個と集団――芭蕉・其角・許六・去来
     10 定家と其角の間


  九 『女殺油地獄』――舞台形象への道筋をさぐる

       1 原宿と四ツ谷の間
      2 原宿文楽の意図とその達成度
      3 床本を読むための柔軟体操
      4 種本の正体をさぐる
      5 文学形象から舞台形象へ
      6 〈内なる観客〉との対話をめざして


  十 虚実皮膜の論理――『難波みやげ』序にみる近松の創作方法とその文学精神

      1 課題の再確認
      2 『難波みやげ』序における穂積以貫の位置
      3 古学派の学統と以貫――精神の系譜
      4 『経学要字箋』にみる以貫の学風と心根
      5 以貫と近松の出会い
      6 創造の担い手としての作者・演者・観客
      7 文句は情をもととす――近松の詩精神
      8 芸術の言葉と日常の言葉
      9 “うつり”と“うつす”――写実と反映
     10 情と義理――某が憂は義理を専らとす
     11
芸と実事――虚構の問題



U  近代文学にみる小説論



  
    はじめに
      1 言語と文学
      2 形式と内容
      3 芸術認識の過程構造

     

  二 古典平家との対話――『さざなみ軍記』覚え書

      
1 公達をとりまく人間模様
      2 『さざなみ軍記』の成立過程(その一)
      3 『逃亡記』と『丹下氏邸』――『さざなみ軍記』の成立過程(その二)
      4 『さざなみ軍記』の文学課題

         三 長編小説における対話の構造――『かるさん屋敷』覚え書

    
1 作品の内側から――二つの個性を通路に
       2 史実への問い直し
      3 核状況下の倦怠――作品制作の時点から
      4 長編小説の魅力――〈人生〉の準体験





V  展  望

 
一 文学とは何か――基軸としての読者論

    
     
 
1 国語教科書における評論の位置

      2 「小説の読み方」――その構成と特徴
       3 準体験の発想を生かす
           
4 第一次の足場をどうきずくか
      5 未知と既知との関係を確かめながら〈準体験その一〉
      6 日常性と非日常性のあいだ〈準体験その二〉
      7 “文学の眼”“虚構の眼”による追跡――読者である民衆に学ぶこと
      


  二 〈内なる読者〉の発見


    
1 熊谷理論の現代性
      2 追体験と準体験
      3 認識・表現・表現理解の関係・関連
      4 読者論の視座
      5 芸術の認識機能
      6 芸術による伝え合い
      7 内なる読者との対話
      8 作家の自己凝視


    
 
あとがき

  
索  引


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