バックナンバー
2002

・[2002.03.30] 熊谷孝論文/石川達三『人間の壁』を検討。春の合宿研究会
・[2002.04.30] 『わがユダヤ・ドイツ・ポーランド刊行
・[2002.05.09] 「文学と教育」の電子化進む
・[2002.08.08] 「文学と教育」の電子化進む
・[2002.09.06] 8月6日、平和を祈り「真理の鐘」点鐘
・[2002.11.08]「文学と教育」196号発行
・[2002.11.22]「文学と教育」半年刊に!!
・[2002.12.01]電子化、一挙にすすむ
・[2002.12.16]《研究会通信》「月刊 国語通信」に掲載


熊谷孝論文/石川達三『人間の壁』を検討。春の合宿研究会[2002.3.30]

 文教研春季合宿研究会を3月26〜28日、大学セミナー・ハウスで行いました。日程は第1部:熊谷孝〈創造過程における自我対象化の問題〉(1963.8.27 法政大学心理学公開講座での講演、『言語観・文学観の変革と国語教育』の第U部として収録)の検討、第2部:石川達三『人間の壁』(1957.8.23〜1959.4.12「朝日新聞」に連載、最近「岩波現代文庫」に。)の検討、のように進められました。

 これまでの研究例会で何回かにわたり
乾孝の論考(例えば、〈行為するものとしての自分を変革の対象としてつかまえること――課題史〉『私の中の私たち』所収)を取り上げてきましたが、それらと対比しながら上記の熊谷論文を読み直すことによりはっきりしてきたことは、乾理論・熊谷理論に共通する基本的性格が〈認識論・集団論(組織論)・コミュニケーション論を統一的に追求している理論である〉という点です。

 
検討を通じて明らかになってきたことのうちには、さらに次のような点があります。@熊谷孝乾孝の学問は文芸学心理学というそれぞれ異なる分野において、業なかばにして獄死した戸坂潤(1900-1945)反映論を発展的に継承していること、A戦後直後の思想的混迷の中でたたかわされた〈主体性論争〉(1946-)のような重要な哲学的論争に関しても両者はそれぞれの立場から的確な批判活動を展開していること、Bそして1950年代後半、大衆社会状況下での新たな疎外状況に抗して〈人間の回復〉を闘いとるべき明確な視点を、おのおのの専門領域において提示していること、等々です。

 『人間の壁』志野田(尾崎)ふみ子先生は、子供たちのための真の教育を守る闘いの中でめざましく自我の変革を遂げていきます。そのふみ子先生を取り巻く教師群像の中で、今回の会でとりわけ話題の集中した人物として沢田先生と一条先生があります。

 沢田安治郎先生について、その人間的魅力は彼が大正デモクラシーの空気の中で育ってきたことと無縁ではないだろうということ、その彼にしてなお、ふみ子先生の切実に求めるものに応えきれないのは、彼の中の旧い〈自覚せざる自我〉ゆえではないかということ、などが話し合われました。沢田先生は決定的場面において決定的なことばで話せない。
〈相談ことば〉でなく〈命令ことば〉(乾孝の分類でふみ子に対してしまう。沢田に深い尊敬と十分な愛情を感じつつもふみ子が彼の結婚の申し込みをもう一歩のところで受け入れることができなかった理由として、そのようなことを見落とすことができないだろう、というのです。

 情報通の一条太郎先生の、教育についての、また組合運動についての一見筋道立った議論を、無視して済ますことは周囲の者にとって容易にできることではありません。大衆社会状況にぴったり適応した生き方を信条としているらしいこの人物の、その手強い発想とどう対決していくかということが、ふみ子にとっても逃れられない日常的な課題となっていきます。答がなければ決して行動に踏み出さないという一条太郎のような人に、現実の変革は半歩たりとも進めることができないということが、彼女にはわかっているからです。ふみ子の〈社会的主体〉への成長を促したものとして、一条太郎の果たした役割はその意味で大きかった、ということもできるでしょう。

 〈逆コース〉の勢いが加速され五五年体制が固められていくこの時期に、石川達三は一条太郎の人間としての姿を力を込めて描いている、このような新しいタイプの〈近代主義者〉の人間像を造型しえたことの文学史的意義は極めて大きい、という指摘もなされました。いわゆる
〈マイ・ホーム主義〉が大衆の間に広く浸透していくのもこの頃からであることを考え合わせると、時代の空気の中に危機的なものを鋭敏に感知しそれを具体的な形で示す、いわば〈時代のカナリヤ〉の役目を石川もまたここでみごとに果たしていると、確かに言えるように思われます。大学セミナー・ハウス本館遠望(2002.3.28)

 2日間の日程の中で作品の全編(文庫版で3冊)を検討するというのは、かなりきつい仕事でしたが、そのことによってこの作品を今読み直すことの意義を強烈に感じることができた、ということがなによりの収穫でした。


マルセル・ライヒ=ラニツキ著
『わがユダヤ・ドイツ・ポーランド――マルセル・ライヒ=ラニツキ自伝刊行[2002.4.30]

 マルセル・ライヒ=ラニツキはポーランド生まれのユダヤ人。戦後はドイツを舞台に文芸批評その他の分野で精力的な活動を展開しています。彼の自伝の邦訳がこのほど上記の標題で刊行されました(西川賢一訳、2002年3月 柏書房刊、5,700円 写真左)。
 原著
“MEIN LEBEN(マイン・レーベン、1999年8月 DVA刊 写真中は、私たちがケストナー文学を検討する際に、読者論的観点からの好適な参考資料の一つとしてとりあげたものです。
 著者が21歳の誕生日に、のちに妻となるトーシャから手製のケストナー詩集(『抒情的家庭薬局』から抜粋した詩56篇を美しく筆写・装丁・製本したもの。写真右はその覆刻)を贈られたこと、そしてその詩集を彼女とともに読み合うことが強制収容所(ワルシャワ・ゲットー)での困難な日々を生き抜く支えとなった(邦訳 p.33-34)、ということなどが全国集会その他の場で話題になりました。
 
 同書内容紹介(柏書房)書評(読売)書評(日経)ケストナー関連部分

『わがユダヤ・ドイツ・ポーランド』 “MEIN LEBEN” トーシャ手製のケストナー詩集


「文学と教育」の電子化進む[2002.5.9]

 機関誌「文学と教育」の既刊分についての電子化国立情報学研究所で進められています。2002年5月初め、新たに163号〜167号の電子化が終わりました。
これにより163号から193号まで
(合併号を含む)と別巻「総目次号」計30冊が閲覧可能な状態となりました。今後も順次古い号に遡る形で電子化が継続されていく予定です。


「文学と教育」の電子化進む[2002.8.8]

 機関誌「文学と教育」の既刊分についての電子化国立情報学研究所で進められています。2002年8月初め、新たに194号の電子化が終わりました。これにより163号から194号まで(合併号を含む)と別巻「総目次号」計31冊が閲覧可能な状態となりました。今後も順次古い号に遡る形で電子化が継続されていく予定です。


8月6日、平和を祈り「真理の鐘」点鐘[2002.9.6]「平和の鐘」の点鐘

 8月6日、ヒロシマ原爆記念日の午前8時15分、大学セミナー・ハウス教師館の屋上で「真理の鐘」の点鐘が行われ、有志参加者によって多くの犠牲者の冥福と世界の平和を祈る黙祷が捧げられました。
 点鐘は毎年、文教研全国集会に広島から参加したメンバーの手によってとり行われ、セミナー・ハウスの行事として永年続けられてきているものです。

「文学と教育」196号発行[2002.11.8]

11月8日、文教研の機関誌「文学と教育」第196号が発行になりました。 記事の細目については「文学と教育」最新号目次〉を参照してください
‖機関誌「文学と教育」‖「文学と教育」最新号目次‖


「文学と教育」半年刊に!! 【『文学と教育』196号より転載】[2002.11.22]

 大企業中心の新自由主義的経済下にあって、倒産する企業があとをたちませんが、企業のみならず、様々な団体も経済的理由から、その存続が危ぶまれる状況に陥っているようです。文教研もまた、会費の改正、機関誌の年4回発行から年3回発行へ等改革を重ねてきましたが、財政的逼迫はいかんともしがたく、ここに、今年度より、機関誌発行を原則として年2回(11月、5月)とせざるをえなくなりました。
 「文学と教育」をご支援、ご愛読くださいました読者の皆様には何とも言いようもございませんが、従来と変わりませずご購読のほどよろしくお願い申し上げます。なお、一方的な撤退では何ともしゃくにさわりますので、年2回発行を原則としつつも、奇数年には特別号を発行実質2年間で5回発行というようにしたいと考えています。定期購読代、誌友代等、変更にともないいろいろご迷惑をおかけすることとなりますが、これまたよろしくお願い申し上げます。(編集部)


電子化、一挙にすすむ[2002.12.1]

 機関誌「文学と教育」の電子化が国立情報学研究所で進められています。このたび123号から162号までの40冊がまとめて電子化され、これで195号までの合計71冊の閲覧が可能となりました。今後、ひき続き65号〜122号の電子化を行う予定です。
 なお、同研究所電子図書館の利用資格・条件・方法等については、下記サイトで確認してください。
http://els.nii.ac.jp/nacsis-els-j.php3?top


《研究会通信》-「月刊 国語通信」に掲載[2002.12.16] 

 文学教育研究者集団の紹介記事が「月刊 国語教育」(東京法令出版)2002年12月号の「研究会通信」欄に掲載されました。夏目委員長の筆で文教研の歴史・現在の活動状況・共同研究の成果などが3頁にわたり詳しく述べられています。第51回全国集会のスナップ写真数葉が添えられ、研究集会の雰囲気も伝わってくるようです。

「月刊国語教育」


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