文学と教育 ミニ事典
  
〈リアリズム志向のロマンチシズム〉
 リアリズムに対するロマンチシズムの関係というか関連ですが、ロマンチシズムというのはリアリズムの精神構造そのもののこと、というのが私の仮説的な判断です。リアリスティックな姿勢というのは、これはあくまでも態度であり姿勢をさす以外のものではありません。ロマンチシズムという精神構造のありようによって導かれる、具体的な姿勢のことだと、そう考えます。
 もっとも、ロマンチシズム一般というようなものが在るわけではない。そこで、仮りに、ここでいうロマンチシズムに名前を与えるとすれば、ということで命名したのが、
〈リアリズム志向のロマンチシズム〉いうことなわけです。
 ともかく、ここで私のいうロマンチシズムとういのは、リアリズムをリアリズムたらしめる、その精神構造のことなのです。ですから、ロマンチシズムを欠いたリアリズム、というようなものは(私には)考えられません。そこにロマンチシズムの存在を否定することは、自身にリアリストであろうとし、絶えずリアリスティックであろうとする人びとの、現実の行動選択の仕方を導く思索のありよう、その精神構造の存在を否定することになろうかと思うからです。
 つまりは、ここで、
〈リアリズム志向のロマンチシズム〉というのは、リアリスティックな眼、行動選択の眼を持って生きつらぬこうとする人にとって唯一必要な、そのような性格のロマンチシズムのことだ、ということになります。〔1987年、熊谷孝著『増補版・太宰治――「右大臣実朝」試論』 p.4-5〕
   

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