文学と教育 ミニ事典
  
事実/真実
 〈事実〉あるいは〈事実に即する〉ということに関して(中略)、あるいはまた〈事実〉と〈真実〉に関して、(中略)一括して言うと、事実とは、体験の日常性に与えられたその 事物(=事柄)に対する、日常的な意味での第一次的な認知・把握である、ということだ。言い換えれば、それは、事物(=事柄)の第一次的真実真実性を言い表わしている。事実もまた、その限り、真実なのである。しかも、それは事実を明らかにする」とか、(わたし自身よく使う言葉だが)「現実の事実として」というふうに、一定の常識、社会通念を前提とした真実をさしている。言葉そのものの使いかたとしては、「二二が四という客観的事実」(椎名麟三)というような使いかたさえあるわけだ。
 で、日常性を越えた次元で――端的に言って科学性なり芸術性の次元で――真偽を問い続けていて、何が真実か混迷・混乱に陥ったような場合、そこまでたどってきた論脈を逆にたどり直し、論理の糸をたぐり直すということをやるわけだが、その行き着く先、つまり起点は日常性における真実――事実にほかならない。〈事実に即する〉というのは、だからして、事実(=自他にとっての第一次的真実)にたち戻って、科学性なり芸術性の次元と秩序における整理をめざして再出発する、ということ以外ではない。〔1973年、熊谷孝著『芸術の論理』p.10-11〕



〔関連項目〕


ミニ事典 索引基本用語