文学作品を読むとはどういうことだろう、と考えてみると、それは作品を楽しみながら読むことから始まるはずです。そして、その楽しみの中で問題を探り、問題を探ることに楽しみを覚えるようになっていきます。様々な人生を生きる人間への関心が掘り起こされ、胸に響く新たな人間の発見へといざなわれていくわけです。作品を読んだ後、自分の何かが少し変わっている、それが文学を読む楽しみでしょう。ですから“文学教育”というのは、作品を読む中で現実の見直しが可能になる、そんな人間への手助けをすることだと思います。 今年4月、井上ひさしさんが亡くなりました。小説家、脚本家、放送作家、そして、時代を引っ張っていくオピニオンリーダーとして、ともに同じ時代を生き抜いてくれた作家でした。私たちは、今、あらためて井上作品と正面から向き合う必要があるでしょう。その井上さんの作品「握手」が中学校の教科書に載っています。今次集会は、この作品を通して、井上作品へのアプローチの視点を探ると同時に、感動を通して私たちの何かが少し変わる体験ができたら、と思います。