個々に自立した動物たち──Nさんの秋季集会報告──

ゼミの風景
  11月9日、くしくも総選挙の日、また、1989年ベルリンの壁が崩壊した記念日、文教研・秋季集会としてケストナー『動物会議』が開かれました。五時間に及ぶ長丁場でしたが、絵本という楽しいテキストを相手に、充実した時間を過ごしました。豊富な内容はいずれ機関誌でまとめられます。ここでは、いつものように私が印象に残ったところを中心に何点かご報告しましょう。
 実は当日、私は第二パート(11〜22頁)の話題提供者でした。ですから、そこで「うんうん考えた」ことが反映している、と思ってください。

 今回私が感じたことの一つは、「世界」というものをどう実感するか、ということでした。12・13頁で動物たちや貧しい人間たちが見つめている丸い地球。それは薄っぺらい、国境線が引かれた世界地図ではありません。重みのある、紛争があればそこから煙の上がる地球そのもの、自分たちが今、生活しているこの場所、実物の地球という星です。(トリヤーは動物たちの場所は明るく描いていますが、人間たちがいる場所は暗いですね。)

 動物たちにとって、「世界」というのはまさに国境なく繋がっている。動物から動物へ、それぞれが自分らしいやり方で、動物会議開催を伝えていくわけで、ここは本当に楽しいですよね。集会に、イラストレーターのUさんが参加してくれていて、ここでの動物たちが、たとえば犬にしても様々な種類、鳥にしても鹿にしても様々な種類が描き分けられていることを、ケストナーの文章とともに指摘され、一匹一匹がその一匹として大切に扱われていると発言されていましたが、本当に実感です。だから動物一匹一匹にちゃんと名前がある、自立した個として描かれているんでしょうね。「地球の反対側にいる動物たち」に知らせに行くのは、あのミミズのフリードリーンです。

動物たちの参集ルート(世界地図) 地球の裏側に仲間がいる、その仲間のことを考えて行動する。そういう仲間意識、世界観そうしたものが、この動物たちの中には自然な形で形成されている。これはまさに、以前Kさんが指摘していた「わが子への愛情が地球の裏側にいる子どもたちにまで広がっていく」という心理学者・乾孝さんの発想ですよね。ケストナーとトリヤーがこの本の中で見せてくれる「世界」。それは例えば、そこのすべてを自分の居場所として、仲間の存在を感じているフリードリーンの世界観です。 
 
  ケストナーもこのフリードリーンの存在をとても大切に描いていますが、トリヤーの絵についても、これまたUさんの集会最後の指摘で、なるほど、と思わされました。絵描きさんとしては、色々描いた中でも、自分の気に入った絵にサインを入れたく思うんだそうです。今回のこの絵本では4箇所にサインが入っています。それは自分で探してみてくださいね。で、最後のフリードリーンとバッタの絵にもサインが入っている。Uさんもこの絵は小品ながら、動きのあるいいものだ、とおっしゃっていましたが、それだけトリヤーの思い入れが感じられます。

 さて、だいぶ長くなってきたので、これくらいにしておきましょう。74頁のオスカルの演説が人間たちにどんな反応を導いたか、つまり、オスカルの論理は政治家を選ぶ私たち民衆へ向けてのメッセージである事など、お伝えしたい事はたくさんあるんですけど、それはまた、別な機会に。(以下、略)  〈文教研メール〉より抜粋転載

(Koさん、Kaさん合作の、動物たちが会議に集まってくるルートを示した世界地図は、会場で大評判でした。-上の写真-)

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