朝日新聞 2021.9.12 〕 

高校新必履修科目「現代の国語」  
教科書に小説 掲載の波紋
  (抜粋)
 
○ 来年度から高校の必履修科目となる「現代の国語」の教科書に、ある教科書会社が「羅生門」などの小説を載せ、物議をかもしている。同科目では「文学的な文章は除く」と学習指導要領の解説で示されたが、五つの小説を載せた教科書が検定で合格。ライバル社が「疑義」を呈した。(略)

「採択していいのか」
○ 「現代の国語」は読む教材に、評論文など「現代の社会生活に必要とされる論理的な文章」を載せることとしている。(略)

○ ところが、今年3月にあった教科書検定で第一学習社(本社・広島市)が申請し合格した「現代の国語」の教科書4点のうち1点に、五つの小説(芥川龍之介の「羅生門」、原田マハの「砂に埋もれたル・コルビュジエ」、夏目漱石の「夢十夜」、村上春樹の「鏡」、志賀直哉の「城の崎にて」)が載った。文部科学省によると、他の3点や、検定を通った別の教科書会社7社の計13点に小説は掲載されていない。/これに対し、一部の教育委員会から文科省に「小説が載っているが採択してもいいのか」などと問い合わせがあった。(略)

「一切禁じるわけでは」
○ 文科省は同24日、教科用図書検定調査審議会を開いた。審議会は、同社の「現代の国語」が検定で合格した理由について「小説が盛り込まれることは本来想定されていないが、文学作品を掲載することが一切禁じられているわけではない」と説明。その上で「今回の事態を重く受け止め、今後はより一層厳正な審査を行う」とした。

○ 五つの小説が載った教科書について同社は、目次で、これらの小説が「読む教材」ではないことが明確になるよう訂正。取材に「教育現場のニーズが非常に強く、不合格を覚悟でチャレンジする価値があると判断した」と説明した。

○ 文科省教科書課は「検定の考え方について説明が足りず、現場に疑義が生じたことをおわびする。今後は文学作品が安易に載ったり、少し工夫すれば載ったりする科目ではないことを理解して頂く」と述べた。

「文学も重視したい」現場とのズレ」
○ 今回の背景には、評論や新聞記事、法令文などを教材に実社会で役に立つ国語を学ばせたい新学習指導要領の狙いと、小説などの文学も重視したい教員側の意向とのズレがある。(略)

○ 五つの小説は掲載されたまま、現在、各教育委員会による採択が進む。東京都教委によると、都立高校のうち、小説が載った同社のこの教科書を選んだ学校は53あり、全体の24%を占め最多だった。

○ 他の教科書会社からは、検定した教科用図書検定調査審議会や文科省に対して批判が出ている。文科省が学習指導要領解説の説明会で「『現代の国語』はノンフィクションの科目であり、小説が入る余地はない」と説明したためだ。/ある会社は「文学作品が一切禁じられていないなら小説を入れたかった。文科省の二枚舌が採択の結果に影響した」と怒る。別の会社も、「後付けのように『小説は一切禁じられているわけではない』と見解を変更し、小説を載せた教科書が、この程度の修正で合格すること自体、到底納得できない」と批判した。(伊藤和行、編集委員・氏岡真弓)

(20210915)     

国語教育・文学教育論議の「現在」