千葉県教育文化研究センター編集出版委員会編集・発行
「ちば―教育と文化」bU9 (2006/08) 「本の紹介」欄

 週間に約一〇〇〇冊の新刊が出、全国一万余店の本屋さんには、一五〇〇余の出版社が鋭意努めて企画した本が並ぶ。
 『ハリー・ポッター』のような世界的ベストセラーから個人遺稿集までだが、よくよく目を見張ってみると、部数だけが内容の良し悪しでないことは今さらいうことでもない。
 この本は、第二次世界大戦前後に活躍したドイツの作家、ケストナーの紹介である。『飛ぶ教室』『動物会議』などを代表作品とする作家の、ていねいな紹介と分析だ。
 この集団は「母国語の教師たらんとする人びとの文学と教育の研究」する全国組織。本書にも登場する安房地区の樋口さんなどが参画している。『飛ぶ教室』というタイトルは奇抜だが、一九三〇年代のドイツ、高等中学生たちと教師を描いた物語。寄宿生活に起きる生徒たちと教師たちの葛藤と、厳しいが子どもを見守る教師がリアルに伝わる。
 こうしたケストナーに魅せられるのはなぜか。作品が今の時代に通用するばかりか、荒廃した日本だからこそ子どもも教師も、ほんとうはわたしたち大人こそ読みたい。
 わたしは、どんな文章・文学も実社会や人間に役立つ、生きていく力になることこそ使命だと思っている。そのためには、よりリアルであり、より実践的なほうがよいと思う。
 ケストナーの魅力は、登場人物がいま生きてここにいるような描きであり、少しも「優等生」ではない。
 『わたしが子どもだったころ』という自伝的作品でも、少しも誇張せず、むしろ自戒的ですらある。
 小説と同じくらいにたくさんの詩を残したケストナーだが、あの戦争中のナチス時代にも祖国を離れず、ときには揶揄的に作品を書きつづけた。ここにも当集団の先生たちを魅了している一つかもしれない。
 当書はかならずしも読みやすく売れる本ではないかもしれないが、きっと日本ではなかなか会えない作家を見られるだろう。(塚)



『ケストナー文学への探検地図』紹介書評目次