日本民間教育研究団体連絡会編「民教連ニュース」bP67(2005/05)


 ケストナーは、ナチス・ドイツ の圧制下で執筆を禁止されながら も、ドイツに留まって不服従をつ らぬいた抵抗の作家である。
 今、わが国ではケストナーの文学作品が再評価されている。二〇〇三年には、ケストナー原作の「飛ぶ教室」がドイツで映画化され、わが国でも上映された。ケストナーの文学精神とは何か、その作品群をどう評価するのかという点で、本書の発行が待たれていた。
 本書は、@ケストナー語録、A ケストナーとの対話(1)(2)、Bケストナーの作品紹介、C資料編、から構成されている。ケストナーの人と作品群、生きた時代背景を鳥瞰する上で、コンパクトにまとめられた入門書として有益であるばかりでなく、最新のケストナー研究の成果も、随所に散見される。その意味で、本書はたんなる入門書にとどまらない。
 文学教育研究者集団の集団的労作としての成果は、とりわけケス トナーとの対話編でいかんなく発揮されている。「飛ぶ教室」「動物会議」の作品紹介と最新研究の成果が、多様な視点から縦横に座談会形式で語られている。「動物会議」では、ケストナーとともに、挿し絵を担当したヴァルター・トリアーも正当に評価されていることが、特筆される。
 ケストナー語録には、「『勇気をともなわないかしこさ』は、ドイツの多くの教師がそうだったように、危機が迫ってくると、怒鳴られる前に、『これまでの見解をさっさとゴミ箱に捨て』てしまうような人間をつくりだします」とある。 さらに、「一九三三年以前から、『自分で行動するどころか考える勇気さえない従順で国家に忠実な役人』 として育てることが、教員養成の一貫した目的だつた」という指摘は、今の日本の教育行政にも通底するのではないだろうか。巨大な壁に直面すると、ともすれば無力感にさいなまれる私たちに、希望 に向かって呼びかけ続けるケストナーの〈文学精神〉に学びたい。(戸倉信一)


『ケストナー文学への探検地図』紹介書評目次