「月刊 国語教育」(2005/08) 〈読書案内 Book Talk

 
皆さんケストナーを読んでみませんか。
 エーリッヒ・ケストナー。二つの世界大戦の間とその後のドイツで活躍した作家ですが、決して海の向こうの過ぎ去った時代の作家ではありません。祖国ドイツに踏みとどまって、ヒトラーの第三帝国の興亡を見据えながら、八歳から八十歳までの読者に向けて、人間として生きることの励ましの言葉を発信し続けた作家でした。
 戦間期の「エーミールと探偵たち」や「飛ぶ教室」、第二次大戦後の「動物会議」などなど、笑いを通して現実の問題をさぐってゆくケストナーの世界は魅力一杯です。悪現実を生き抜くために、ドイツ市民はどうあればいいのか。あり得べき市民の自立の姿を追い求めるケストナーの文学は、二十一世紀のテロと戦争のただ中にある私たちにも、時代と国境を越えて、心の言葉となって伝わってきます。まさに、〈一九四五年を銘記せよ〉ですし、事態を打開して行くためには〈それにもかかわらず、飛ぶんだ〉ということです。
 優れた翻訳文学はまた優れた日本文学です。ケストナーの作品には名訳が沢山あります。「国語」教育の現場などで、改めて教材化されてもいい対象なのではないでしょうか。
 そうしたケストナー文学への探検地図を作ってみました。地図を片手に、ぜひ、ケストナーを読んでみて下さい。――本書はそうした呼び掛けに満ちた本なのです。(佐藤嗣男)



『ケストナー文学への探検地図』紹介書評目次