初期機関誌から

「文学と教育」第9号
1959年7月21日発行
 編集後記 
 9号は、今までの研究報告一本の編集に、さらに幅をもたせるように努力してみました。
 その意味で、小川勇さんの実践記録“倍も倍もぼくはしあわせです”は、力作ぞろいの9号の中で、多くの問題点をなげかけているように思われます。とくに、しあわせであることの自覚を手がかりに、子どもの実感をつくりかえていくモメントが、明快な表現で追求されています。
 バーや飲屋に囲まれた新橋駅界隈の子どもたちを相手の実践記録でありますが、それがたんなる特殊性に終っていない。

 ところで、わたしたち教師が、めいめいの持ち場で実践している成果を、その場かぎりのものにしてしまわないためにも、相互の体験を交換し、批判しあっていくことが、当然必要になってきます。私たちのサークル自体が、不十分にせよ、当初から、そういう交流を続けてきたわけです。
 文学教育の会は、私たちのサークルにみられるねがいを、全国的な規模と視点で追求しようとしております。今までの混迷からぬけ出して開かれた「文学教育の会第2次研究集会」は、したがって、こんごの文学教育運動の一つのエポックになるのではないか、と考えられます。

 小沢雄樹男さんは、私たちのサークルの話しあいを土台に報告され、政治と教育、文学と教育との内面的な結びつきをえぐることで、今日の実践的な課題を提起しております。
 熊谷孝先生は、その助言において、昨日真実であったことが、それとして今日真実ではありえないことを指摘され、変動はげしき時代における私たちの学習態度のあり方を、まず明確に示唆してくれました。また、文学と教育との結びめについての助言は、道徳教育と文学教育の野合という事実に対する小沢さんの批判を歴史的・論理的に要約し整理して下さったものです。

 西沢静子さん、川越怜子さんの研究報告は、前回までのつみ重ねを一歩前進した地点でなされております。とくに八月例会が、報告者をもうけなかったのも、この報告をさらにもう一度真剣にとりくみたかったからであります。

 9号には、とくに熊谷孝・熊谷映子のお二人にお世話になりました。心からお礼を申しあげます。〈Y.A〉

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