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河童忌前のある日に 流木 ◆ 貸し別荘<イの4号> 7月は、私が敬愛する作家の命日が多い。 7月9日は森鴎外、10日井伏鱒二、そして芥川龍之介が24日である。 龍之介の命日「河童忌」は、今年80回目を迎えるそうだ。 芥川は鵠沼に縁がある。「蜃気楼」や「鵠沼雑記」「悠々荘」はここが舞台だ。 作品を楽しんでも、私はその作家の私生活についてあれこれ知ろうという方 ではない。ただ、作品を理解するうえで必要なことがらがあるかもしれないの で、日記や書簡、関係者の証言などを読むことはある。 先日、芥川夫人・文さんの『追想 芥川龍之介』を再読した。 その中に「(大正15年夏)田端の家は暗くて陰気だし、西洋皿一枚と缶詰 の簡易生活をしたいという主人の希望により、東屋旅館経営の貸別荘<イの4 号>という玄関を入れて三間の家に移り、鵠沼の簡易生活がはじまりました」 という一文に再会した。以前読んだ折には、この貸別荘について、作品理解上 あまり関係ないことだと思って現地を確かめてみることはしなかった。 そして、いつも散歩で海へ出る道の、適当な所を漠然とそれだと勝手に思い 定めていたのである。別荘の佇まいにしても、海近くに今も残る茅葺の小家に 重ねて、これも勝手にその面影としていたのである。 それがこのたびの再読で、ふと「退職後ここに住んで10年、毎日近くを歩 きながら、そこを正確に知らないほうがむしろ恥ずかしい」と思った。 それで小学校時代の同級生である「鵠沼を語る会」の会長・有田裕一さんに 案内してもらった。 商店街から南へ、1間道路とよぶ細い路地を入って行った。そこは今では建 物が密集していた。その中の一軒を指して「ここが<イの4号>で、むろん家 は建替えられているけど、間数も玄関の向きも当時のままですよ」と有田さん は教えてくれた。道に対して変な方角に玄関がむいていた。 秋になって、一家はこの貸別荘から、すぐ裏の二階家に移るのだが、その家 も残っていた。 確かに<イの4号>も、その裏の二階家も、『追想』で文さんが書いている 「簡易生活」を偲ばせるにふさわしい佇まいではあった。 しかし、わざわざ案内してもらいながら言うのもなんだが、少々幻滅した。 事実を正確に知ることは必要だが、どうも味気ない。 今では、黒松の林も海につづく砂原もない。海浜の侘び住い、といった風情 はどこにもないのだ。 先に引用した「鵠沼の簡易生活がはじまりました」に続けて、文さんは「当 時の主人の気持ちがよく感じ取れます」と書いて、『或阿呆の一生』の一文を あげているが、それをいま、この<イの4号>辺りから思いめぐらすのは容易 ではなかった。 <夜はもう一度迫り出した。荒れ模様の海は薄明かりの中に絶えず水沫を打 ち上げていた。彼はこう云う空の下に彼の妻と二度目の結婚をした。それは彼 等には歓びだった。が、同時に又苦しみだった。三人の子は彼らと一緒に沖の 稲妻を眺めていた。彼の妻は一人の子を抱き、涙をこらえているらしかった。 「あすこに船が一つ見えるね?」 「ええ」 「檣(ほばしら)の二つに折れた船が」> (『或阿呆の一生』43夜) 夫人が「当時の主人の気持ち」といっているそれは、芥川自身の精神の再生 と、妻との暮らしのやり直しを求めていた、その必死な気持ちのことだろう。 再生とやり直しへの苦しい努力は続けられたが、しかし力尽きた。 翌年、彼は自死した。 夫人によれば、亡くなる前年(大正15年)の夏、鵠沼の家へ弟子の渡辺庫 輔氏を呼んで、今まで作った俳句を整理し、清書してもらったという。 その中から、夏の句を3句、以下に抜き出した。 蝶の舌ゼンマイに似る暑さかな 唐黍やほどろと枯るる日のにほひ 松風をうつつに聞くよ夏帽子 とりわけ唐黍の句は、鵠沼の砂地の畑に、今も見られ光景である。 ◆ 芥川を悼む句と歌 芥川は、このように俳句もたくさん残した。 専門俳人では飯田蛇笏(だこつ)の作品に感心し次のような文を書いている。 <……或時歳時記の中に「死病得て爪美しき火桶かな」と云う蛇笏の句を 発見した。……蛇笏の名前に注意し出した。勿論その句境も剽窃した。 癆咳(ろうがい)の頬美しや冬帽子 惣嫁(そうか)指の白きも葱に似たりけり 僕は蛇笏の影響のもとにそう云う句なども製造した……>云々。 その蛇笏は芥川の死を悼んで、次の一句をおくっている。 たましひのたとへば秋のほたるかな また歌人の斉藤茂吉も、次のような挽歌をおくった。 壁に来て草かげろふはすがり居り透きとほりたる羽のかなしさ ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 〔ざぶらん通信〕 作 者:流木(RyuBqu) 編集者:風間加勢 発行日:毎月15日発行 ご意見、ご感想は掲示板「浜辺の語らい」にお寄せ下さい。 http://www.geocities.jp/ryubqu88/(旧) |
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