文学と教育 ミニ事典
  
喜劇精神
 「新旧ともにあまりのぼせあがらないように」という、近代主義と前近代主義に対する統一的批判の姿勢は、どうやら芥川文学にとって一つの基本的姿勢を示すものであったように思われる。それは言い換えれば、人生に調和をもたらすことを求めての文学であった、ということである。調和というと、何がなし常識的でぬるいものを想起しがちであるが、ぬるいというのは当たらないけれども、そこに希求されている調和が常識を基準としての調和であったことは確かである。もっとも、彼の考える常識というのは、「危険思想とは、常識を実行に移そうとする思想である。」(『侏儒の言葉』)という意味での「常識」のこと以外ではなかったけれども。(…)

 「調和を求める精神は、センチメンタリズムの否定につながり、またセンチメンタリズムの否定において
喜劇精神につながっている。あるいは、喜劇精神だけがセンチメンタリズムへの逸脱をくいとめ、真実の調和と統一をそこにもたらすものだ、ということになるのだろうか。〔1973年、熊谷孝著『芸術の論理』p.230-232〕



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