抜書き帖 言葉・文学・文学教育・その他
  
 芸術の創造と一般市民 (見出しは当サイトで付けました。)
  

宇野功芳

「商業主義の極まりに抗して
――クラシック音楽の衰退を憂う」より

=朝日新聞 夕刊 2003.3.10

 
18世紀のモーツァルトやベートーヴェンは、王侯貴族や教会の権威がまだ強い時代にあって、彼らの注文だけでなく一般市民のために作曲することを重視した。言い換えれば、一般市民が彼らに優れた音楽を書かせたことになる。市民たちが優れた審美眼を持ち、その理想を芸術家に要求したのだ。これは王侯貴族や教会の好みとは違う自分たち自身の嗜好しこうを持っていたことになる。
 翻って現代の聴衆を見たとき、彼らはどれほど芸術の創造に関与しているのだろうか。現代における王侯貴族はマスコミや商業主義をあおる音楽産業である。そして恐ろしいことに、一般大衆は商業主義やマスコミの求めるものが自分たち自身の欲求だと錯覚してしまう。すべての人がそうだとは言わないが、真の芸術を求める人の数は極めて少ない。これでは後世に残る作品が今の時代から生み出されるのは不可能であろう。
 
◇ひとこと◇ 「音楽」を「文学」に、「音楽産業」を「出版産業」に置き換えてみれば、文学の歴史と現代の文学状況についても当てはまるように思う。そしてまた、文学における創造と鑑賞のかかわりについて考える一つの原点がここにある。宇野功芳氏は指揮者、音楽評論家。(2003.3.10 T)

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