≪『君たちはどう生きるか』(吉野源三郎):作品と作者をめぐって≫ 
 

「君たちはどう生きるか」 80年経て大ヒット
 (『朝日新聞』東京版 ニュースQ3 2017.12.6)


 日中戦争が始まった1937年に出版された本「君たちはどう生きるか」のマンガ版が大ヒットしている。刊行から3カ月あまりで100万部に迫る勢いだ。80年の時を超え、なぜ売れるのか。(…)
 マンガ版は8月にマガジンハウスから刊行され、95万部を突破。同時に出た原作の新装版も24万部となった。アニメ監督の宮崎駿さんが10月、同名のタイトルで次回作を手がけると明らかにしたことも影響したとみられる。(…)
 その古典をなぜいま、改めて世に出したのか。マガジンハウスの担当編集者、鉄尾周一さん(58)は原作を愛読していたが、「若い人には説教くさいだろう」と思っていた。だが、20、30代の同僚たちに話を向けると、彼らはすでに読んでいて「すごくいい作品ですよね」と返してきた。鉄尾さんは「もっと読んでもらえる作品なのかもしれない」と考え始めた。
 難しさを和らげるためj、マンガ化を選択。担当した漫画家の羽賀翔一さん(31)は、古い街並みを参考にしようと東京・湯島に引越し、2年かけて完成させた。「コペル君」の成長物語という原作の骨格は維持しつつ、対話を通じて「叔父さん」も変っていくようにしたのが、マンガ版の特徴だ。子どもだけでなく、大人にも自分を投影してほしいと考えたという。マガジンハウスは、ヒットの理由を「題名に代表されるシンプルで普遍的なメッセージが幅広く受け入れられた」とみる。
 80年前の作品が輝きを放つ理由について、吉野をテーマにした研究論文がある佐藤卓己・京都大教授(メディア史)は、この本の吉野の主張を「主体として能動的に生きていくことの重要さだ」と説明。「『ポスト真実』という言葉が流行したように、情勢判断の難しさに不安を感じている人は多い。一人ひとりが高所から全体状況を見極める能力を求められており、その視点の重要さを説くメッセージが共感を得ているのだろう」と話す。(高久潤、田玉恵美)


 

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