文学教育よもやま話 7     福田隆義       

  教材体系〈自主編成の資料〉として   【「文学と教育」№197(2003.7刊)掲載】        

はじめに
 昨年の文教研九月総会で、教科書が話題になった。小学校でどんな作品にふれてきたかを知りたい、というのである。そこで今回は、小学校に限ってだが、教科書に収録された文学教材といわれているものを中心に紹介しようと思う。あくまで紹介であって、推薦ではない。さいわい、市立の教育資料センターに展示会用の教科書が、そのまま保管されていて、自由に閲覧できる。昨秋の二学期もなかば、訪れる人はいないようだ。広い閲覧室をひとり占め。
 六社の教科書はまっさら。表紙も折れていない。手垢もついていない。展示会も形式的だったことを、教科書が物語っている。もっとも、自分の使う教科書を自分で決められないのなら、真面目に比較検討することもないだろう。
 テーブルいっぱいにひろげていると、五十年昔が甦ってきた。戦後、学校・学級ごと独自に教科書を選んで使えた頃のことである。が、そのことについては、次回にまわそう。一覧表でスペースをとりそうだから。


教科書の作品
 いうまでもなく、教科書に収録された文学作品、ないし文学的な作品は、「学習指導要領」によって拘束されている。そこには「文学教育」という発想はない。文学作品といっても「読む」領域の、さまざまな読み物の一部として位置づけているにすぎない。したがってといっていいだろう、骨太な作品が少なくなっていくのは残念だ。先生方のなかには、自分が子どものころ感動した、あの作品がないと、がっかりされる方もあるのではないかと思う。また、どの教科書にも指導内容はもとより、指導方法にいたるまで示唆がある。いわば、教科書の編集方針にそった、それなりの体系がある。その体系に組み込まれた作品である。そういう意味で、同じ作品も、出版社によって首をかしげたくなる教材化がある。教科書の編集方針が授業を規制しているといえよう。
 ところで、教科書に収録されているという理由だけで、あるいは、教科書会社の出版した「指導書」の示唆どおりに授業を組む無責任な教師は、まずないと思うのだが? 多くの教師は自分の鑑賞体験を通すだろう。その上で、目の前の子どもを対象に、内容も方法も自分の教育体系なり教材体系に、組み替え、組み込むという繰作をするのではなかろうか。いわば教育過程の自主編成である。六・七十年代、声高に叫ばれた自主編成の運動は、教科書もふくめた、柔軟な形で定着したと思いたい。
 文末の一覧表は、小学校の教師にとって、他の教科書にどんな作品が掲載されているかを知る、いわば、自主編成のための参考資料である。また、中学・高校の教師には、小学校で生徒がどういう作品に接してきたかを知る、めやすにはなると思う。そういう意味の紹介である。


教料書の定番「作品」
 全六社が取り上げている作品に『ごんぎつね』がある。訳者はちがうが『おおきなかぶ』も全六社。『かさこじぞう』が五社。教科書攻撃の対象になった『おおきなかぶ』も『かさこじぞう』も健在。あまりにも、お粗末な非難・攻撃だったからだろう。両作品は教科書の定番になったといえそうだ。作者からいうと、あまんきみこが七作品で五社。宮沢賢治が五作品、全社。それに賢治の伝記が二社。この伝記が賢治の文学を解明する教材として位置づけられるかどうか、検討の対象にはなるだろう。
 前記、三作品は文教研でも話題になった。記録として残っているものを紹介しよう。括弧内の漢数字は機関誌「文学と教育」の号数である。
  『ごんぎつね』……佐藤嗣男「南吉童話の成立(上)――〈文学史一九二九〉の位相の下に」(一八二)。同「南吉童話の成立(中)――『権狐』と『ごん狐』」(一八四)。読み返すことをお勧めしたい。
  『おおきなかぶ』……荒川由美子「絵本『おおきなかぶ』を読む」(一三七)。なお、この作品については『文学の教授過程』(熊谷孝監修・文学教育研究者集団著/明治図書・一九六五年刊)、『文学教育の構造化』(同・一九七〇年刊)で、取り上げた。教科書に掲載される以前のことである。が、残念ながら絶版。
  『かさこじぞう』……瀬田貞二再話・赤羽末吉画『かさじぞう』(こどものとも傑作集・福音館刊)を『かさこじぞう』と、比較して論じたものに福田隆義「民話の教材化――絵物語としての『かさじぞう』」(一四五)。同「『かさじぞう』――その源流と直接の母体を求めて」(一五五)。西平薫「国語教育としての文学教育――絵本『かさじぞう』を中心に」(一六六)などがある。


機関誌「文学と教育」を読み返す
 文教研は、教科書を無視したことはない。たとえば、最初の著作『文学の教授過程』(前出)は、各学年、教科書から一作品、教科書外から一作品という構成にした。教科書であろうと、これと思う作品は正当に位置づけてきた。以下スペースのゆるす限り、作品の論評や実践記録を「文学と教育」に拾ってみよう。紙幅のつごうで作者名、作品名に限らせていただく。なお、かつては教科書(要約・一部掲載をふくむ)に掲載されていた作品には*印をつけておいた。削除された作品の傾向がつかめると思ったからである。括弧内の漢数字は同じく「文学と教育」の号数。これも自主編成のための参考資料にしていただきたい。
 「文学と教育」では、池田香代子訳*『エーミールと探偵たち』(一九一)だが、教科書には高橋健二訳が掲載されていた。以下は、中学のほうが適切かもしれない。高橋健二訳『エーミールと三人のふたご』(一九四)、同『点子ちゃんとアントン』(一八八)、同『飛ぶ教室』(一八七・一八四)。今も研究を継続している。佐野洋子作*『おじさんのかさ』(一七六・一七三・一六八・一六五)。同『一〇〇万回生きたねこ』(一九二・一六四)も入れておこう。アンデルセン作・大畑末吉訳*『皇帝の新しい着物』(一七五)。なお、この作品については、熊谷孝著『文体づくりの国語教育』(三省堂・一九七〇年刊)「若い日のアンデルセン」、および『文学教育の構造化』(同前)にくわしい。御伽草子の*『一寸法師』(一七九.一六八)。岩倉政治作『空気がなくなる日』(一七八・一七二・一二三)。壷井栄作『あたたかい右の手』(一七二)。ロフティング作・井伏鱒二訳*『ドリトル先生アフリカ行き』(一六七・一三一)。これも他の作品をふくめ「ドリトル先生シリーズ」としたほうがいいのかもしれない。ブラートフ再話・ラチョフ絵・内田莉莎子訳『マーシヤとくま』(一八〇)。ノーソフ作・福井研介訳*『ヴィーチヤと学校友だち』(一四二)。ドーデ作・桜田佐訳*『最後の授業』(一一六)。プールリアゲ作・塚原亮一訳『太陽は四角』(一六二・一二四)。島崎藤村作『藤村の童話』(一二五)。
 増頁してもらったが、もう、紙幅がつきた。残念。


○教料書読物教材一覧表○

    ◇光村図書

 一上 おむすびころりん               はそべただし
    大きなかぶ                さいごうたけひこ
 一下 くじらぐも                 なかがわりえこ
    ずうっと、ずっと、大すきだよ 
              ハンス=ウイルヘルム ひさやまたいち訳
    たぬきの糸車                    きしなみ
 二上 スイミー      レオ=レオニ たにがわしゅんたろう訳
 二下 お手紙          アーノルド=ローベル みきたく訳
    三まいのおふだ              まつたにみよこ
    スーホの白い馬             おおつかゆうぞう
 三上 きつつきの商売                  林原玉枝
    三年とうげ                     李錦玉
 三下 ちいちゃんのかげおくり            あまんきみこ
    モチモチの木                  斎藤隆介
 四上 三つのお願い      ルシール=クリフトン 金原瑞人訳
    白いぼうし                  あまんきみこ
 四下 一つの花                     今西祐行
    ごんぎつね                    新美南吉
 五上 新しい友達                    石井睦美
    プラム・クリークの土手で  
          ローラ=インガルス=ワイルダー 恩地三保子訳
 五下 わらぐつの中の神様                杉みき子
    大造じいさんとガン                 椋鳩十
 六上 やまなし                    宮沢賢治
     *イーハトーヴの夢(伝記)           畑山博
 六下 海の命                     立松和平
    きいちゃん                  山元加津子


    ◇学校図書

 一上 おおきなかぶ               うちだりさこ訳
 一下 はじめは「や!」             こうやまよしこ
    ふしぎな竹の子               まつのまさこ
 二上 ひつじ雲のむこうに             あまんきみこ
    くま一ぴき分はねずみ百ぴき分か      かんざわとしこ
 二下 ぼくのだ! わたしのよ!
              レオ・レオニ たにがわしゅんたろう訳
    かさこじぞう              いわさききょうこ
 三上 つり橋わたれ                 長崎源之介
    大きな山のトロル   
              アンナ=ウァーレンベルイ 菱木晃子訳
 三下 海の光                     緒島英二
    大砲の中のアヒル            ジョイ=コウレイ
               ロニー=アレキサダター・岩倉務共訳
 四上 白いぼうし                 あまんきみこ
    ポレポレ                   西村まり子
 四下 小鳥を好きになった山 
              アリス=マクレーラン ゆあさふみえ訳
    ごんぎつね                   新美南吉
 五上 チョコレートのおみやげ              岡田淳
 五下 注文の多い料理店                宮沢賢治
    父ちゃんの凧                 長崎源之介
 六上 青い花                     安房直子
    アニーとおばあちゃん  
             ミスカ=マイルズ 北面ジョーンズ和子訳
 六下 ロシアパン                   高橋正亮


    ◇東京書籍
 
 一上 おおきなかぶ               うちだりさこ訳
 一下 サラダでげんき               かどのえいこ
    ゆきの日のゆうびんやさん           こいでたん
 二上 手紙をください              やましたはるお
    ニヤーゴ                 みやにしたつや
 二下 名前を見てちょうだい            あまんきみこ
    かさこじぞう              いわさききょうこ
 三上 すいせんのラッパ                工藤直子
    テウギのとんち話                 李慶子
 三下 サーカスのライオン              川村たかし
    ぼくはねこのバーニーが大好きだった
                ジユティス=ボースト 中村妙子訳
 四上 とっときのとっかえっこ
               サリー=ウィットマン 谷川俊太郎訳
    あ・し・あ・と                 尾崎美紀
 四下 ごんぎつね                   新美南吉
    世界一美しいぼくの村               小林豊
 五上 父さんの宿敵                  柏葉幸子
    ちかい         ポール=ジエラティ なせあいこ訳
 五下 注文の多い料理店                宮沢賢治
 六上 あの坂をのぼれば                杉みき子
    ヒロシマのうた                 今西祐行
 六下 海のいのち                   立松和平
     *宮沢賢治 (伝記)             西本鶏介


    ◇教育出版 
 
 一上 おおきなかぶ               うちだりさこ訳
 一下 お手がみ        アーノルド=ローベル みきたく訳
 二上 うしろのまきちゃん             やざきせつお
    ちょうちょだけに、なぜなくの       かんざわとしこ
 二下 きつねのおきやくさま            あまんきみこ
    かさこじぞう              いわさききょうこ
    アレクサンダとぜんまいねずみ
              レオ=レオニ たにがわしゅんたろう訳
 三上 消しゴムころりん                  岡田淳
    おにたのぼうし               あまんきみこ
 三下 屋根のうかれねずみたち
               ジェイムズ=マーシャル 安藤紀子訳
    のらねこ                     三木卓
    わすれられないおくりもの
                 スーザン=バーレイ 小川仁央訳
 四上 やい、とかげ                  舟崎靖子
    一つの花                    今西祐行
 四下 アジアの笑い話
    トルコ・中国・朝鮮の民話、日本の落語
    ごんぎつね                   新美南吉
 五上 五月の初め、日曜日の朝             石井睦美
    おはじきの木                あまんきみこ
 五下 雪わたり                    宮沢賢治
 六上 美月の夢                    長崎夏海
    川とノリオ                 いぬいとみこ
 六下 きつねの窓                   安房直子


    ◇日本書籍

 一上 おおきなかぶ               うちだりさこ訳
 一下 ねずみのおきょう              こいけたみこ
    ピーターのいす     ジャック・キーツ きじまはじめ訳
 二上 お手紙         アーノルド・ローベル みきたく訳
    クロはばくの犬               みやかわひろ
 二下 かさこじぞう              いわさききょうこ
    草色のマフラー              ごとうりゆうじ
 三上 白いぼうし                 あまんきみこ
    ガラスの花よめさん              長崎源之介
 三下 モチモチの木                  斎藤隆介
    アナグマの持ちよりパーティ
                 ハーウイン・オラム 小川仁央訳
 四上 海、売ります                 岡田貴久子
    チイ兄ちゃん             任大霖 中田美子訳
 四下 海にしずんだおに               松谷美代子
    ごんぎつね                   新美南吉
 五上 おいの森とざる森、ぬすと森           宮沢賢治
 五下 木竜うるし(脚本) あとかくしの雪       木下順二
    魔法使いのチョコレート・ケーキ
               マーガレット・マーヒー 石井桃子訳
 六上 ふたりのバッハ                  森忠明
    川とノリオ                 いぬいとみこ
 六下 石になったマーペ                 谷真介
    青い馬の少年…
             ビル・マーティン・ジュニア 金原瑞人訳


    ◇大阪書籍

 一上 どうぞのいす               こうやまよしこ
    おおきなかぶ               うちだりさこ訳
 一下 はんぶんずつ すこしずつ        おかもといちろう
    天にのばったおけや            かわむらたかし
    ぴかぴかのウーフ             かんざわとしこ
 二上 お手紙          アーノルド=ローベル 三木卓訳
    とらとふえふき                  金恵京
    コスモスさんからお電話です           杉みき子
 二下 かさこじぞう                  岩崎京子
    いいものもらった                 森山京
 三上 つり橋わたれ                 長崎源之介
    母さんの歌                   大野充子
 三下 やまんばのにしき               松谷みよ子
    マーリャンとまほうの筆            君島久子訳
 四上 雨の夜のるすばん               川村たかし
    ともに生きたい                  村田稔
    一つの花                    今西祐行
 四下 ごんぎつね                   新美南吉
    風のゆうれい     テリー=ジョーンズ さくまゆみこ訳
 五上 注文の多い料理店                宮沢賢治
    手紙                       宮本輝
 五下 大造じいさんとがん                椋鳩十
 六上 マコちゃん                   那須正幹
 六下 川とノリオ                 いぬいとみこ
     附子(狂言)                 茂山千作

                                   〈二〇〇三年度使用検定教科書〉

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