熊谷 孝監修/文学教育研究者集団 著
中学校の文学教材研究と授業過程 
         
『中学校の文学教材研究と授業過程』函


1966年5月
明治図書出版株式会社 発行

A5版207頁
定価720円
絶版
 これは、わたしたちの学習集団──文教研が共同研究のかたちでおおやけにする二回めの仕事です。去年の六月、明治図書から出版した『文学の教授過程』は、多くの現場のナカマの支持をえて版を重ねております。うれしいことだし、ほんとうに、ありがたいことだと思っております。
 が、それと同時に、現場の支持が大きければ大きいほど、わたしたちとしては、あるうしろめたさ を感じないわけにはいきませんでした。というのは、口に方法主義・指導手順主義の排撃をとなえながら、実際には、依然、方法主義に足をとられている自分達の姿をそこに見つけて、内心忸怩たるものがあったからです。
 そこで、自己内心の方法主義と対決しそれを剔抉するつもりで取り組んだのが、こんどの仕事です。前の本では小学校の面にしぼって文学の授業構造とその原理にさぐりを入れました。この本では対象領域を中学校の場に移して、もう一度根底から文学の授業のあり方について考えてみることにしました。方法主義的な指導過程論ではカタのつくはずもない、中学・高校の文学教育の場に故意に、意図的に自分自身を立たせることで、これが文学教育固有の路線だというものをさぐりだそう、としたわけです。この本は、つまり、そういうわたしたちの共同研究の中間報告だということになります。
(本書「この本ができるまで」より)  

監修者:熊谷 孝(くまがい たかし)
1936年法政大学文学部卒業、法政大学助教授を経て、現在、国立音楽大学教授。 主著『芸術とことば』(牧書店)『新しい日本文学史』(磯部書房) 『文学教育
』(国土社)『文学の教授過程』(明治図書)その他。[監修者・執筆者紹介による]
      
  内 容

   はしがき

T 中学校文学教育の課題と方法………………………熊谷 孝

1 現代の疎外状況と文学教育

2 発達と文学教育 

3 文学の授業構造



U 前期の授業                

1 ト  ロ  ッ  コ(三省堂・他)………………………………荒川有史

 (1) 暗い谷間の自己凝視〈作品について〉
 (2) 芥川文学は敗北の文学か〈教材化の視点〉
 (3) 孤独感の根源にふれる〈指導過程〉


2 馬 盗 人(筑摩書房刊)………………………………夏目武子

 (1) 失われた体験の世界〈作品について〉
 (2) 「ほろびる人々、たちあがる人々」の視点から〈教材化の視点〉
 (3) 人間信頼への感動を〈指導過程〉


3 ジャン・ヴァルジャン物語(岩波書店刊)………………………………佐伯昭定

 (1) 巨人ジャン・ヴァルジャンの誕生〈作品について〉
 (2) 自己の内部に反映されたジャン・ヴァルジャン〈教材化の視点〉
 (3) 「十九年!」の意味をさぐる〈指導過程〉

4 人 間 の 歴 史(岩波書店刊)………………………………芝崎文仁

 (1) 「人間−巨人」の重み〈作品について〉
 (2) 人間の巨人性を中心に〈教材化の視点〉
 (3) 具体的に、楽しく〈指導過程〉




V 後期の授業

5 二 百 十 日(角川文庫)………………………………本間義人・土橋保夫

 (1) 青年文学としての『二百十日』〈作品について〉
 (2) 作品に反映された民衆像を的確に〈教材化の視点〉
 (3) 作品にあふれる滑稽感を媒介として〈指導過程〉



6 山 椒 大 夫………………………………本間義人・武田金市郎

 (1) 「歴史そのまま」の世界ということ〈作品について〉
 (2) 安寿の入水を焦点として〈教材化の視点〉
 (3) 「時代の心」をおさえながら〈指導過程〉


7 電 報(三一書房刊)………………………………夏目武子

 (1) 素朴な生活者の典型〈作品について〉
 (2) 三部作として読む中で〈教材化の視点〉
 (3) “どん百姓”の語感をつくりかえながら〈指導過程〉


8 屋 根 の 上 の サ ワ ン(光村・他)………………………………川越怜子

 (1) 地殻の提供者〈作品について〉
 (2) 「私」と「読者」の接点をこえて〈教材化の視点〉
 (3) 「私」をごまかさずにみる〈指導過程〉



9 女 生 徒(筑摩書房刊)………………………………福田隆義

 (1) 女生徒登場の必然性〈作品について〉
 (2) 『走れメロス』か『女生徒』か〈教材化の視点〉
 (3) おしゃれのもつ意味〈指導過程〉


W 共同学習 文学教育の問題点………………………熊谷 孝 他



X 学年別・基本教材 解題

 (1) ラム『シェイクスピア物語』Tales from Shakespere── 一八〇七年刊(一年生)
   ……川越怜子
 
 (2) ジュール・ヴェルヌ『十五少年漂流記』Two Years Vacation── 一八九九年刊
   (一年生)……土橋保夫  
 
 (3) ディケンズ『クリスマス・キャロル』A Christmas Carol── 一八四三年刊(一年生)
   ……海江田波留美

 (4) いぬい とみこ『ウミネコの空』── 一九六五年刊(一年生)……鈴木 勝  
 
 (5) 大関松三郎詩集『山芋』── 一九五一年刊(一年生)……寒川道夫

 (6) 緒方富雄訳『蘭学事始』── 一九五九年刊(一年生)……村松友次
  
 (7) 呉承恩『西遊記』(二年生)── ……柴森順子
  
 (8) 『平家物語』(二年生)……川越怜子
  
 (9) 田宮虎彦(『落城・絵本 他』── 一九四八年刊(三年生)……海江田波留美

 (10) ジョナサン・スウィフト『続ガリヴァー旅行記』Gulliver's Travel── 一七二七年刊
   (三年生)……津村 武

 (11) アレクサンドル・デューマ『三銃士』── 一八八四年刊(三年生)……山田昌子

  (12) 福沢諭吉『福翁自伝』── 一八九九年刊(三年生)……蓬田静子
 
 
  (13) 幸徳事件をめぐる一連の詩作品(春夫・啄木)── 一九一一年刊(三年生)
   ……熊谷 孝 



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