佐藤嗣男 著
芥川龍之介 その文学の、地下水を探る      
  
佐藤嗣男著『芥川龍之介』
2001年3月25日
株式会社 おうふう 発行
A5判 303頁
定価 2800円+税
(書店で発売中
 歴史的状況の中で刻々に変貌する近代主義を見据えることで、芥川は、敵の中のエゴイズムのみならず、味方の中のエゴイズムを看破するのである。殊に、味方の中の意識せざる エゴイズムが、味方を分断し連帯を不可能にし孤独地獄へと追いやるのだ。意識せざるエゴイズムの打破を、孤独に耐える性情を、そして、それらを可能にする精神の自由を、――日本型現代市民社会の起点となった一九二〇年代における芥川の叫びは、二一世紀初頭の今、私たちの前に瑞々しいメッセージとなって蘇ってくる。
 それでは、精神的奴隷からの解放を叫ぶ芥川文学の〈地下水〉とも言える〈謀叛の精神〉はいかにして醸成されたのであろうか。そうした芥川文学の地下水を追い続けたのが、私の二〇世紀だったのかもしれない。故熊谷孝氏との出会いがその契機となったわけだが、そうして書きためたものの幾つかをまとめたのが本書である。
(本書「あとがき」より)
 
   
著者:佐藤嗣男(さとう つぐお)
1943年仙台市に生まれる。早稲田大学第一文学部卒業。法政大学大学院修士課程終了。現在、明治大学教授。文教研常任委員(編集部長)。著書に『井伏鱒二 山椒魚と蛙の世界』(武蔵野書房)他がある。
   
   
  内 容

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蘆花と龍之介――近代散文成立への一つの道筋           
  • はじめに――母国語を愛した芥川                 
  • 鴎外から芥川へ
  • 真の言文一致を目指した芥川
  • 士族の言葉から山の手の言葉へ
  • 芥川と『自然と人生』
  • 「日光小品」と『自然と人生』
  • 蘆花の新文体創造への胎動(一)・(二)
  • 蘆花の講演「謀叛論」の存在
芥川文学と「謀叛論」――熊谷孝「なぜ、いま、芥川文学か」を読む
  • 芥川文学奪還の提唱
  • 熊谷氏の国立音大講演
  • 最近の芥川研究の動向
  • 西川栄次郎の証言
  • 大逆事件への芥川の関心
蘆花講演「謀叛論」考
  • はじめに――文学事象としての大逆事件
  • 〈東京の真中で思い切り演説して後に死にたい〉
  • 蘆花講演(一)〜(五)
  • おわりに――〈精神の自由〉を!
「大導寺信輔の半生」――芥川文学の達成点
  • 孤独に堪える性情の世界――プロット
  • 落莫とした後世へのメッセージ
  • 教養的中流下層階級者の視点の確立


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「大川の水」小論――白秋的世界との同質性と異質性

『赤光』と芥川龍之介

「小品四種」の構成
――古典との批判的な対決・葛藤
  • 〈長篇小説〉を書いた芥川
  • 「黄粱夢」
  • 「英雄の器」
  • 「蛙」と「女体」
  • 「尾生の信」による組みかえ

芥川龍之介、井伏鱒二とトオマス・マン
  • 芥川龍之介と「トビアス・ミンデルニッケル」(一)・(二)
  • 井伏鱒二とトオマス・マン
  • 「屋根の上のサワン」と「トビアス・ミンデルニッケル」

芥川とチエホフ――「秋」を中心に
  • はじめに――「叔父ワニヤ」観劇
  • 芥川のチエホフ再発見
  • チエホフ文学の摂取――「秋」に即して(一)・(二)
  • おわりに――「自動作用」からの脱出
  • 〔資料〕日本近代文学館・芥川龍之介文庫蔵チエホフ英訳本及び芥川自筆書き込み一覧

「芥川とチエホフ」補遺――「藪の中」「六の宮の姫君」に即して
  • はじめに――芥川のチエホフ再発見
  • チエホフ的方法をくぐった〈歴史小説の方法〉――「藪の中」の世界
  • 〈原点そのまま〉にあるべき現実を映し出す――「六の宮の姫君」の世界
  • おわりに――チエホフ体験の内在化

初出一覧
あとがき
索 引

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