熊谷 孝 著
太宰 治 『右大臣実朝』試論
 
『太宰 治 「右大臣実朝」試論』   (…)この作家の死後、次つぎに「難解」な意味づけが太宰文学に対しておこなわれて来ております。結果は、その作品の世界は大衆には近寄りがたい、あるいは近寄ってはならない世界にされかけているようです。(…)
 そこで私としては、太宰文学の原点にかえって、
(太宰自身の言葉を引いていえば)「文学に一ばん必要な、素朴な感動」に支えられたところの、それ自身決して「難解」ではないその「心づくし」の文学の展開を跡づけてみたいと思います。ナルシシズムがどうの何がどうの、といった深刻な意味づけは極力避けて、その作品のありようを作品自身の内側から探るという姿勢において、であります。いいかえれば、それぞれの作品の関連や作品表現の場面規定――場面の条件――
をできるだけきっちり押えるようにして、ということなのであります。(…)(「あとがき――太宰文学奪還」より)



1979年6月
鳩の森書房 発行

四六判 320頁
定価 1500円 
絶版

著者:熊谷 孝(くまがい たかし)
1911年、東京に生まれる。法政大学文学部卒、同大学院修了。専攻、文芸認識論・日本近代小説史。
法政大学助手・講師・助教授、 国立音楽大学教授を経て、現在国立音楽大学名誉教授。文学教育研究者集団に所属。
著書  『芸術とことば』(牧書店)、『芸術の論理』(三省堂)、『文体づくりの国語教育』(三省堂)、『言語観・文学観と国語教育』(明治図書)、『井伏鱒二〈講演と対談〉』((鳩の森書房)その他約十編、ほかに編著書十数編。
  内 容

T  太宰文学の原点

      近・現代文学史上、最も不幸な作家

     太宰文学の座標
――『晩年』の世界

     太宰文学展開の軌跡
――その時期区分

     日中戦争から太平洋戦争へ

     無頼派談義
――戦後へ


U  “あそび”の系譜――森鴎外と太宰治

     太宰文学の源流――教養的中流下層階級者の視点

     幸徳事件と鴎外

     アマチュアリズム
――鴎外から太宰へ

     考証と考証癖と
――『阿部一族』(一)

     メンタリティーの文学
――『阿部一族』(二



V  『右大臣実朝』のために(一)
 太宰治の眼に映じた『吾妻鏡』の世界


     史実と虚構と――相州義時と実朝の間

     『吾妻鏡』にみる“あそび”の精神
――匠作泰時の場合・和田義盛の場合



W  『右大臣実朝』のために(二)
 『金槐和歌集』と太宰治


     実朝像の原型・現像

     『右大臣実朝』論の源流と今日の主流的見解

     『金槐和歌集』の中の実朝像

     『金槐和歌集』と『右大臣実朝』と


 
X 『右大臣実朝』三題

     
戦中から戦後へ――十人十色の実朝像/ナルシシズム

     “実朝のころ”の太宰治
――「鶴岡」源実朝号のことなど

     ポエジーの、散文文学的実現への移調



Y 詐欺師と嘘つきと――『右大臣実朝』再説

     ア
カルサハ、ホロビノ姿デアロウカ

     倦怠の文学
――芥川竜之介の場合

     “芥川を越えた”作品、ということの意味
――鴎外・井伏の歴史小説と『右大臣実朝』と

     メンタリティーの文学としての『右大臣実朝』

     『右大臣実朝』前後
――『富岳百景』から『津軽』へ、そして戦後へ

     マチ針としての『金槐和歌集』の歌



   
あとがき――太宰文学奪還

   
太宰文学略年譜


   さくいん


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