初期機関誌から

「文学と教育」第27号
1963年4月14日発行
  『芸術とことば』の出版によせて   文教研編集グループ  

 待望の、熊谷孝氏の著書『芸術とことば』が、五月一日、牧書店から出版されます。
 氏が二年の余にわたって改稿に改稿をかさね、自信をもって世に問う労作です。すでに校正もおわり、製本行程にはいっています。
 所収の本文原稿、七百枚。書き下しです。A5判で四百ページ近い、ヴォリュームのある書物です。総目次を本号の四〜五ページに掲げました。
 目次からもおわかりいただけるように、本書は、芸術過程としての言語過程をいろんな角度から明らかにしています。

 1 文学の機能を、芸術の機能との関連のなかではっきりさせた。また、“ことば”に直接関係のない音楽は絵画などの芸術が、“ことば”体験のささえによって成立していることも。
 2 古典的な芸術理論に密着しながら、それを生かした。ギュヨー、マルクス、デュウィー、フロイトなどの先行理論が正しく現代に生かされている。たとえば、「作品に示された感情を理解できるためには、読者は、あらかじめ、その感情を自分の内側に持っていなければならぬ」というギュヨーの考えを、ことばの面からは“内語”に、構造論的には“内なる仲間”に、芸術論的には“内なる鑑賞者”にそれぞれ媒介することで、発展させている。
 3 第二信号系理論を、芸術過程を包括的に説明できるように編成した。その意味で、「作家の内部」の一章は、とくに注目にあたいする。
 4 文学の未来像が、テレビ、映画などとの比較をとおしてあきらかにされている。
 5 日本文学、外国文学からの豊富な引用が、本書を具体的に理解するのにとても役立っている。しかも、その引用はたんなる具体例にとどまらず、伝え理論を媒介することで、たとえば新しい西鶴像、たとえば新しいチェーホフ像をうちだしているのである。

 以上、気がついた特色をいくつかひろってみたわけですが、とにかく本書は、『文学序章』『文学教育』であきらかにされた“熊谷理論”をある面ではさらに深め、整理し発展させたものであります。
 副題である「文学研究と文学教育のための基礎理論」の名にはじない本です。
 わたしたちが、こんご、理論面で、また実践面でカベにぶつかることがあったような際、この本は、かならずわたしたちのよい相談相手になってくれることとおもいます。そうした中で、わたしたちは、わたしたちの“文教研理論”を創造することができるとおもいます。
 さしあたって、わたしたちは、この六月と八月にサークル主催の(また日本生活教育連盟と共催の)二つの研究集会をひかえております。
 この二つの集会(とくに六月集会)を目標に、五月という月は、これまでの研究と実践の成果を反省しつつ磨きをかけるための、突貫作業を学習面でおこなう必要にせまられています。
 で、地方のサークルのメンバーは、その学習の基本テキストとして、この『芸術とことば』をぜひ読んでいただきたいとおもいます。
 東京在住のメンバーは、やはりこの『芸術とことば』を読みあって、討議をかさねていくことにします。
 そして六月集会で、著者をかこみ、各地のナカマたちと膝をまじえて合評、全体討議をおこなおう、と考えております。

 無から有は生じません。著者が先行の理論をうけつぎ発展させている方法に、わたしたちも学びたいとおもいます。
 叙述のわかりやすさにひきずられて、早合点するのはやめましょう。
 自分がいままでにわかっていること、本書を読んではじめてわかったこと、をはっきりさせ、わたしたちの思考方法のゆがみ、ひずみを検討しましょう。

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