N さんの例会・集会リポート(2015.12.26_27年末例会、2016.1.9例会)
   
  吉野源三郎「君たちはどう生きるか」

文教研のNです。

久しぶりの例会報告です。
年末例会から吉野源三郎「君たちはどう生きるか」を読み合っています。
SEALsの推薦図書の一冊だったことが、一つのきっかけでした。

「君たちはどう生きるか」は1937年、「日本少国民文庫」の最後に配本されました。
日中戦争の始まった年です。ちなみに、この文庫の中の「世界名作選」(山本有三編)にはケストナー「点子ちゃんとアントン」(高橋健二訳)も載っています。


まえがき

 コぺル君は中学二年生です。
 ほんとうの名前は本田潤一、コぺル君というのはあだ名です。年は十五ですが、十五にしては小さいほうで、実はコぺル君も、かなりそれを気にしています。……(5頁)



 私事でいうと、学生時代、教員時代、そして、現在とそれぞれ違った人生ステージでこの作品を読んできました。そして、今回、特に冒頭から引き込まれました。というのも、私が今、数えで十五の息子の成長を見守る母親であり、そして、そこに描かれているコぺル君が、体格を気にするいかにもこの年の男の子だったからです。

 小さな体で野球をしている「愛嬌のある」様子や、コぺル君のいたずらが「人をこまらせたり、いやがらせたりするような、ひねくれたものではなくて、ただ人を笑わせて喜ぶ、いたって無邪気なもの」というのはあたり前な子どもの持つ魅力です。
と、同時にこういう素直な子どものメンタリティーは成長してどういう人格につながっていくのか、そして、それはまた「笑い」の質の問題でもあると感じました。その後に語られる「油揚げ事件」での山口たちの「悪意のあるいたずら」による「クスクス笑い」や浦川君の「善良な、さびしい笑い顔」とは違う、コぺル君の持っている“健康な子どもの笑い”の持つ意味です。

このことは例会でも、早慶戦のところ(61~69頁)で話題になりました。北見君水谷
君相手にコぺル君がお得意の早慶戦の中継をやるところです。

……
それから三人は、しばらくの間、黙ってねころんでいました。もう、お互いに口をきく必要もありません。黙ってねころんでいるだけで、どんなに楽しかったでしょう。(69頁)


 お腹がよじれるほど笑う三人の姿に、例会では「最近、こういう風に笑うことはなくなったな」と井筒さんがため息交じりに言って笑いを誘いましたが、日中戦争前夜を生きる子どもたちへ向け、吉野さんが、仲間とのこのかけがえのない時間を描いていることに深い感銘をうけますし、同時にまた、こうしたことを丁寧に描くことに、この作品の文体の特徴・魅力があるとも感じます。

 そのことは、浦川君の家の描写、特に浦川君のお母さんの描き方について話しあわれたことともつながるものだったと思います。貧しい豆腐屋の浦川君の家を訪れたコぺル君。もじもじしている浦川君におかみさんは言います。


「ね、坊ちゃん、そうしてやって下さいまし。なんですか、この子が学校のことをたいへん心配してますんで……。ほんとに、むさくるしいとこですけど、まあ、たまには、こんなうちも見ておおきなさいまし。さあ、留や、ご案内おしな。なあに、坊ちゃんなんか、きれいなおうちなら、さんざん見あきてらっしゃらあね。」(108頁)


「寅さんに出てきそうなセリフだよね」という井筒さんの発言に共感が集まっていましたが、そうした堂々とした庶民の前向きなエネルギーが笑いを誘います。吉野さんの筆はこういうところが実に生き生きしています。

この日の出来事を聞いた叔父さんのノートです。


僕は君の話を聞いている間、君のしたことにも、君の話しっぷりにも、自分を浦川君より一段高いところに置いているような、思いあがった風が少しもないのに、実はたいへん感心していたんだが、それは、君と浦川君と、二人が二人とも、素直なよい性質をもっていたからなんだろう。(128頁)


「素直なよい性質」、それはどういう条件の中のどういう精神構造のことなのか、もっと考えてみたいと思います。ただここではっきりしているのは、浦川君のお母さんは浦川君に貧しさのためにいじけた気持ちになってほしくないという強い願いをもって育てているし、コぺル君のお母さんもコぺル君にお父さんが亡くなったことで快活さを失わないでほしいと心底願っている、その思いに裏打ちされた母親の行動に守られながら二人は育っている、ということです。

困難さを前に、しかし子どもの未来を願う前向きで健康的な精神の鼓動がある。それがこの文章の気持ちよさを生んでいる。そんなことが、まず、確かめられてきました。
この次は、コぺル君の成長にもう少し焦点をわせて整理してみたいと思います。

次回例会は23日(土)、「五、ナポレオンと四人の少年」から読み進めます。

以上。



【〈文教研メール〉2016.01.21 より】


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