N さんの例会・集会リポート   2011.9.24例会 
   
   井上ひさし「ナイン」
文教研のNです。
全国集会、例会報告が滞って申し訳ありません。
先日の例会では、秋季集会へ向け、井上ひさし「ナイン」(講談社文庫)の印象の追跡が行なわれました。
短い作品で一気に読んでしまう長さですが、大体半分のところ、正太郎くんのことに話題が移るあたり(14頁)で前半後半に分けました。

前半では、1960年代前半現在の新道との比較が語られます。
「生活」があり「自信」を持って「自給自足」していた街から、「華やか小路」ではあるけれど「外からやってくる客の懐中をあてにしないとやってゆけない」「脆い通り」になってしまった新道。
あの高度成長期とバブル経済の中でどんどん東京の街が変わっていった時期に、小学中学高校(大学)そして社会人へと成長していった少年たちであることが確認されました。
(彼らは1954年生まれ、実は自分も同じ年の生まれだと表明したのは、委員長のIさんでした。)

後半へ読み進め、全体を通して大切だと感じた話題を、箇条書きにしておきます。
1.親世代との関係 親たちの選択(土地を売るなどの)によってバラバラになりたくなかったのにバラバラにさせられてしまった世代。
2.正太郎は、なぜ、こうなってしまったか。正太郎の家庭と野球仲間の存在。
3.「あの夏の一日」にあった、たとえ自分がリスクを負っても仲間を守ろうとする人間関係、新自由主義的な自己責任の人間関係ではないもの。
4.生身の正太郎は登場しないことの意味。もはや「あの夏の一日」は存在できなくなっているが、それでもそれを求めることの意味。
5.“狂言回し”の役割をしている「わたし」の存在。

討論の後、秋季集会のテーマを「人間信頼に賭ける文学とは?」に決定しました。
もっと触発される内容の多い会でしたが、とりあえず次回への橋渡しにしたいと思います。

〈文教研メール〉2011.10.5 より

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